望潮亭通信

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外れる地震予測

 政府の地震調査研究推進本部全国地震動予測地図を公開している。最新は2020年版で、全国の各地点が、どの程度の確率でどの程度揺れるのかをまとめて計算し、その分布を示したのが確率論的地震動予測地図。これは、今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示した地図だが、能登半島は0.1%未満とされている。

 その能登半島の北部を震源域とするM7.6の地震が24年1月1日に発生し、最大震度7だったが、震度5強などの余震が続発し、死者数は200人を超え、崖崩れや亀裂などで道路網は寸断され、家屋の倒壊なども多く、電気・ガス・水道などの復旧は遅れ、孤立集落が点在し、被害の全容はなお明らかではない。

 2020年版での確率論的地震動予測地図では、北海道南東部や関東から四国までの太平洋側などが今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率26%以上とされた。「日本国内で相対的に確率が低い地域でも、油断は禁物」「今後の調査によって過去の地震活断層の存在が明らかにされ、確率が上がる可能性があるなど、地震動予測地図には不確実性が含まれます」との注意書きがあるが、能登半島地震が起きた現在、確率論的地震動予測地図の信憑性は大きく低下した。

 なぜ、大地震の発生を予測できないのに全国地震動予測地図の作成が続けられているのか。その辺りの事情を解き明かす記事が東京新聞に掲載された(1月10日付)。その記事の概要は次のとおり。

南海トラフ地震の発生確率が「えこひいき」されるあまり、他地域に油断が生じている。地震調査委員会は、全国地震動予測地図の在り方について抜本的な見直しから逃げてはいけない。
▽予測地図は地震の発生確率を一律に評価し、行政がどこの災害対策を優先すべきかを判断する材料だ。ところが、確率が低い場所でばかり地震が相次ぎ、役割自体が揺らいでいる。
地震の発生確率が「一律」に評価されていない。南海トラフ地震の確率「30年以内に70~80%」だけ特別な計算式が使われた。他の地震と同様の計算式だと「20%程度」にまで下がる。特別な計算式の採用に「科学的に問題がある」と反対した地震学者たちの声は、国の委員会で「確率を下げると予算獲得に影響する」などの意見によってかき消された。
▽現在の地震学では正確な予測は不可能で、確率には政治的な要因も絡む。その実情が隠されたまま、南海トラフ沿いや首都圏の高い確率ばかりが注目され、低確率の地域に油断が生じ被害拡大につながったならば、それは「人災」である。
▽予測地図について「確率で色分けしているのだから、全国どこでも地震が起きる可能性があると注釈を入れても低確率地域の受け手が安全宣言と捉えるのはむしろ当然」「高い確度の予測は不可能なのに、南海トラフ沿いや首都圏など確率が高い地域にばかり注目が集まり、防災意識を偏らせる結果となっている」と名古屋大の鷺谷威教授。
▽石川県はこの予測を「石川県の地震リスクは小さい」と企業誘致のPRに活用していたが、専門家は「低確率地域では安全との誤解が生まれて油断を生じさせている」と指摘。