望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

スタートから大差

 昨今はあまり見かけなくなった「グローバルスタンダード」という言葉、実際はアメリカンスタンダードじゃないかとの批判もあって消えたのか、「改革」は避けられないという意識を日本人に植え付けたから役目を終えて消えたのか、どちらかは知らないが、うさんくさい言葉だった。

 日本経済は構造改革をしなければならないーということは議論の余地のない共通認識になったようだ。なぜか。成長率が下がり、GDPは縮小し、企業は売り上げ減少で人減らしをして何とか持ちこたえている。デフレつまり日本経済が縮小する中、切り詰めてスリム化する以外に生き残る道はないーように見えるからだ。でも構造改革ってデフレ対策のことだったっけ? 

 日本はどんな社会になるのがいいのか。右肩上がりの成長は暫くはないだろうから、ここらで立ち止まって考えてみよう。貧富の格差が拡大し、少数の「勝ち組」と多数の「負け組」に分かれる日本社会がいいのか。会社に「貢献」する社員以外は常にリストラの対象になる社会がいいのか。根本のところでの議論がない。つまりグローバルにしろアメリカンにしろ、どこかのスタンダードを日本に当てはめようとする論は、日本人の思考停止状態に乗っかったものである。

 ありていに言えば、もっともらしいことを言ってる連中も実は自前の構想力がなく、何かをどこかから借りてきて、さも自分で考えたような顔をしているってことだ。ありがたがって聴いている連中もご同様で、受け入れるだけ。更に言えば、競争を賛美するアメリカにだって弱者保護の仕組みはいろいろあるのに、そこらは無視される。「切り捨てられる」日本人らはどういう振る舞いに出るのだろうか。

 「勝者はますます多くを取る」というアメリカンスタンダードを、国際経済的には「負け組」である日本が取り入れるというのは、スタートから差がついている状態である。ついでに言えば、アメリカは口ではフェアを尊ぶというが、国際的盗聴システムに代表されるように、やっていることはフェアという価値観に関係ない。そんなアメリカに普通の日本人が対抗できるか。日本の外交と同じ程度であろう。

2番打者で送りバント

 こんなコラムを2003年に書いていました。

アナウンサー 「明日は砂嵐が激しくなるとの予報が出されている、ここイラク南部ですが、今日は風も弱く、格好のベースボール日和となりました。ボールパークには『アメリカの自由』チームのメンバーが揃い、入念な準備運動を行っております。対戦相手の『隠してないよ』チームは、数人が来ているものの、主力選手はまだ来ておりません。解説の三味さん、イラクチームの到着が遅れているようですねえ」

三味 「この試合は『アメリカの自由』チームがボールゲームでイラクを負かしてやると、対戦の合意もなしに勝手に乗り込んできたのですから、国際ゲームを成立させる要件は満たしていないわけです。まあ相手チームが乗り込んで来た以上はイラクチームも知らない振りをしているわけにはいかないでしょうから、そのうち来るでしょう。ただエースで4番のサダムは、影武者を出してくるかもしれませんが」

アナウンサー 「それにしても『アメリカの自由』チームは奇妙なメンバー構成ですね。1番がイギリス、2番は「送りバントばかり」の日本、3、4、5番をアメリカが兼ねて、6番スペイン、7番オーストラリアなどと発表されています」

三味 「本来なら4番のアメリカの前後をフランス、ドイツなどが固めるのですが、今回の遠征について“根回し”が不調に終わり、アメリカが単独でも遠征すると言い張り、来たい者だけが来ればいいとしたのですから、いびつなチーム構成になったのもやむを得ませんね」

アナウンサー 「日本は2番です」

三味 「いつもの通り、送りバント以外はしないでしょうね。日本ファンとしては鮮やかにヒットを打ってもらいたいところですが、4番のアメリカに喜んでもらうために自己犠牲をするのが日本の役割だと任じているようです」

アナウンサー 「アメリカは3、4、5番兼務ですが、こんなチームは見たことがありません」

三味 「打力に絶対の自信を持っているからでしょうね。全打席でホームランを打つつもりでしょう」

アナウンサー 「さあ、審判団も位置につきました。今回は、『アメリカの自由』チームに同行取材しているマスコミが審判役を務めるということで、これも変則的ですね」

三味 「国際ゲームでは国際機関が審判を務めることが多いのですが、アメリカがそうした審判を拒否しているので、審判役はマスコミしかいません。ただアメリカと“同じ釜の飯”を食べたマスコミがアメリカにシンパシーを持つかもしれません」

アナウンサー 「試合開始時刻になりましたが、『隠してないよ』チームはまだ全員揃いません。果たして来るのでしょうか」

三味 「なぜ、この試合をしなければならないのかが『隠してないよ』チームには納得いかなかったようですから、意思統一が遅れているのかもしれません」

アナウンサー 「これは今入った未確認情報ですが、エースで4番のサダムが襲われたということです。これが本当なら、この試合には出られそうにありません」

三味 「サダムのワンマンチームですから、彼が来なければ『隠してないよ』チームもゲームを始めるわけにはいかないでしょうね」

アナウンサー 「おや、『アメリカの自由』チームがバッターボックスに立ち、クリケットのようにホームベース上に置いたボールを打ち、走っています。『隠してないよ』チームは数人しか守備位置に着いていないので、ヒット、ヒットの連続です。日本だけは送りバントをしていますが」

三味 「これはベースボールと言えるのでしょうか」

アナウンサー 「やはりイラクでゲームをするのならサッカーを選ぶべきでしたか」

三味 「いや、アメリカは民主主義を押し付けようとしていますから、やはりベースボールでしょう。それにサッカーはアメリカではマイナースポーツですから」

アナウンサー 「どんどん試合は『アメリカの自由』チームの一方的なペースで進んでいきます。突然ですが、ここらで中継を終わらせていただきます。解説の三味さん、この試合の展開を最後に予想してください」

三味 「勝った勝ったとアメリカは大喜びすると思いますよ。では私は、せっかく来たのですから何か記念になるものを探して日本に帰ろうと思います」

新冷戦の姿

 ウクライナに侵攻したロシアだが、欧米から武器などの支援もあってかウクライナ軍の反撃が優勢となって、ロシア軍の劣勢が欧米メディアで報じられる。死傷者の増加で兵員が不足したのかロシアは部分動員令により30万人を徴兵して増員せざるを得ない事態に追い込まれた(実際には100万人を徴兵するとの見方もある)。

 30万人をウクライナ侵攻に投入できたとしても、ミサイルや長距離砲など遠距離からの攻撃が主体となった戦場で、兵員ばかり増やしても戦況の打開にはつながりにくいだろう。それでもロシアが兵員の増派に動くのは、ウクライナに侵攻したロシア軍の大きなダメージを修復するとともに、ウクライナ軍に対して反攻するためか。肉弾戦も辞さずとロシア軍が想定しているなら、悲惨な戦場になりそうだ。

 2月24日に砲撃や空襲などで始まったロシア軍のウクライナ侵攻の結末はまだ見えていない。ロシア軍もウクライナ軍も決定的な勝利を得られず、こう着状態になってダラダラと戦闘が続く可能性もあるが、もしロシア軍が盛り返して、ウクライナ東部から占領地を広げ、ウクライナ政府を瓦解させてウクライナ全体を併合したとすると、世界の光景はどうなるか。

 プーチン大統領は7月に、ウクライナ侵攻により「米国中心の世界秩序は根本的に壊れ、欧米は既に敗北した」と述べたという。当時のプーチン氏は勝利を確信し、ウクライナに対して「戦場でロシアに勝ちたければ試してみたらいい」と余裕を見せるとともに、「戦闘が長引くほど和平合意は困難になる」と戦闘では負けないと信じきっていたようだ。

 もしロシアがウクライナ侵攻で勝利してウクライナ政府を瓦解させたなら、欧米主導の世界秩序は揺らぎ始めるだろう。欧米は軍備支援と対ロ経済制裁などでウクライナを支えたが、その効果が限定的だったことが明らかになると、途上国の民主主義を嫌う強権的政府の多くは、すぐにロシアや中国に近づかないとしても、欧米との距離を保ち、自国の利益優先を剥き出して動くようになるだろう。

 かつての冷戦は米国とソ連による世界の分割支配だったが、そこにはイデオロギー対立という側面があった。ロシアが勝利したなら、ロシアと中国という権威主義国と欧米など民主主義国による世界の分割支配という新冷戦の構図がはっきりする。経済大国になった中国をロシアが資源面から支援するので、経済力でも欧米と中ロは互角になる(ウクライナ侵攻が終わった後に欧州はロシアの資源を限定的にしか買わないだろう)。

 冷戦と新冷戦の相違点は、第一に各国の経済体制が資本主義である、第二に国境を越す人や情報の移動が(制約はあるが)自由、第三に中ロの富裕層は欧米に資産を移している、第四に欧米などにおける中ロの情報戦が活発ーなどだ。類似点は①政治的に妥協が困難、②軍事力を常に誇示する、③中ロにおける政権の正統性が希薄(主権が独裁者にあるのだから、正統性はあると独裁者は主張するだろうが)ーなどだ。

 ただし、ロシアも中国も個人独裁の色彩が濃いので、プーチン氏や習近平氏が政治舞台から退出した後も独裁的な政治が続くかどうかは未知数だ。両国にも民主主義などの価値観を共有する人々が存在するので、集団指導体制に移行したなら、欧米との緊張緩和に動く可能性はある(プーチン氏も習近平氏も69歳。どちらかの国で個人独裁が終わって欧米と協調路線に転じれば、残った国は孤立する)。

うざったい

 こんなコラムを2003年に書いていました。

 なんかあ、このごろ、この国がうざったくない? キミガヨやヒノマルは押し付けるし、今度は愛国心を持つようにさせるだって。自然に愛国心を持つような社会にすればいいのにさあ、政治家がそんな政治をしていないから、学校で強制しなければならないのよ! 

 政治家はだめだけどカンリョーはしっかりしていると聞かされてたけど、それもチョー怪しい。行革って言ったって、官庁なんかスリムにならないし、反対にカンリョーは、日本国民だとの意識の強要はするけれどお、一方では、勝手な理屈をつけてさあ、自分たちの権限と利権ばかり拡大させてるんじゃないの。「お上意識」丸出しのカンリョーが、なんかさあ、最近増えてない? ちょっとお、うざったいから引っ込んでてよ。ってチョー言いたい気分。

 なんで、そうなったわけ? ケイザイのカジ取りに失敗して、どんどん日本ケイザイが縮こまっていって、企業のウリアゲは減るばかり。お給料も減るばかり。減ってもお給料が出るのはいいなんてさあ、リストラされた知り合いの子は言うけれど、なんか、それって、おかしくない? なんかさあ、1億3000万人でやってた国が、カンリョーや大企業の失敗で1億1000万人くらいしか食べていけない国になってしまったのに、構造改革とか言って、ごまかしてんだよ。食べていけなくされた2000万人は、どうすればいいの? それこそカンリョーが考えなければいけないことでしょう? ねえ。

 アタシ、思うんだけどね。キャリアとかいうカンリョーにはさあ、エリート意識に大国・日本とかいう意識が加わって、「俺が指導してやる」なんて、考えてるんじゃない? 迷惑なんだよね、それって。基本的な衣食住の部分でほころびが目立ってきてるんだからさあ、そっちを何とかして、って感じ。エラソーな物言いを見、聞かせられると、チョーむかつく。

利用される住民投票

 親ロシア派の武装勢力が占領するウクライナ東部のドネツクとルガンスクなどで、ロシアへの編入の賛否を問う住民投票が行われた。これは、ロシアが支配地域を併合するための儀式であり、「偽りの住民投票だ」と欧米各国は強く非難し、住民投票も併合も「決して認めない」とした。

 中国は微妙な反応を示した。欧米などのロシア非難には同調しない姿勢は堅持する一方、住民の意思を問う住民投票で地域の独立や他国への編入を決めることにも賛成できず、言葉を濁すしかない。ロシアのウクライナ占領地での住民投票を認めたなら、ウイグルチベットなどにおける住民投票を求める声を否定できず、整合性が取れなくなる。

 中国はロシアと欧米の対立激化を眺め、言葉ではロシアを支援するが、欧米との経済関係に影響が及ばないように慎重に立ち位置を見定めてきた。トランプ政権以来の米国との対立が経済面から政治面まで広がり、欧州でも中国との関係を見直す動きが現れて中国は、言葉では欧米に対して強硬姿勢を維持するが、具体的な行動には強硬な姿勢は現れない。

 9月に習近平国家主席プーチン大統領は会談し、結束していく姿勢を強調したと報じられた。ロシア産の天然ガスや石炭などの中国への供給拡大などで一致し、中ロ間の貿易額を24年に2000億ドルに引き上げる目標を確認したという。ロシアの行き場のない天然ガスなどを中国は買い叩いて購入し、一部は欧州に再輸出していると見られるなど、欧米の対ロシア経済制裁を中国はうまく活用している。

 ウクライナ東部などでの住民投票を欧米が「偽り」と非難するのは、投票が公正に行われたのか確認できないからだ。クリミア半島のロシアへの編入に賛成が9割以上だったという2014年の住民投票をG7は、正当性がないと認めていない。また、ウクライナ憲法では領土変更には国民投票を要することになっていることも、クリミアにおける住民投票の合法性を疑わせている。

 独立国家内の住民が独自に地域の独立を達成したのが、国連の暫定統治下にあったコソボだ。2008年にコソボ議会が独立を宣言し、米やEU諸国などが国家承認した。当時、プーチン大統領は「米欧が独立を承認したコソボとクリミアは全く同じ状況にある」とし、米欧が後押しした2008年のコソボ独立を引き合いに出してクリミア編入を正当化した。

 コソボで多数派のアルバニア系と対立するセルビア系住民が2012年にコソボ政府を認めるかを問う住民投票を行い、99.74%が「認めない」と答えたが、欧米などは無視した。住民投票の結果は「葵の御紋」ではなく、各国はそれぞれに支持したり支持しなかったり様々だ。つまり、自国の政策に好都合な住民投票の結果は支持するが、不都合ならば無視する。

 だから例えば、スコットランドの独立について「どちらでもいい」と各国は中立を保ち、住民投票を見守るだけにとどめる。もし、中国のウイグルチベットで独立の賛否を問う住民選挙が行われることがあれば、米ロをはじめ各国は活発に公式・非公式に介入するだろう。中国の弱体化が自国にとって有利か不利かを各国は真剣に考える。

「大谷1安打」

 駅の売店では「大谷1安打」などと赤で大きく書かれたスポーツ紙や夕刊紙のチラシがあったりする。どんなにすごい出来事かと思うと、これが、ただヒットを1本打っただけ。優勝を決めたわけでもないし、その試合の勝利を決めたヒットでもなく、ヒットを打ったということでしかない。テレビも同様、毎日のスポーツニュースでは必ず「日本人メジャー選手の活躍」コーナーを設けて、各局同じ映像を流し、コメントも似たり寄ったり。

 野茂やイチロー、松井らがメジャーに挑戦することを日本人の多くは応援した。彼らのメジャーでの活躍に関心を持つ人は多かったのだろうが、ヒットの1本、2本にいちいち大騒ぎすべきなのか。

 おそらくマスコミ側は、そんなに連日大騒ぎすべき“ニュース”ではないことを知っているが、「大谷1安打」と大々的に扱ったほうが売れ行きがいい、視聴率がいいということだろう。売れ行きの話を持ち出されると「スポーツジャーナリズムは云々」という原則論は脇に押しやられ、「大衆が読みたがっているものを提供するのがマスコミの使命だ」などという営業的判断が優勢となる。大衆が読みたがっているのは「大谷1安打」だけなのか。ほかに選択肢が提供されていない現状では大衆は「大谷1安打」を読むしかない。

 メジャーという檜舞台で野茂、イチローらの日本人選手が活躍し、日本人の多くは喝采を送った。二刀流で大活躍する大谷選手にも日本では大絶賛が続き、各社の取材体制が組まれてしまったため、何かの記事を記者は毎日送ることを強いられ、日本では「大谷1安打」という大見出しやスポーツニュースになっているのかな。

変化と生活保守主義

 こんなコラムを2003年に書いていました。

 経済が縮小する中で、貧富の差が拡大し、大量の首切りが行われて失業者は増大(中高年のみならず、20代では潜在的失業率は14、5%になるとか)、少数の“勝ち組”以外は“負け組”とされ、1億総中流幻想はまさしく幻想となった。一方では対米従属戦争への備えも進み、この国の姿はここ数年で大きく変わった。

 何がこの変化を支えているのか。

 第1に、生活の不安から来る生活保守主義の強まりがある。巨額の赤字を抱える政府が増税や公共サービス切り捨て、更にはインフレ誘導に向かうことを見通している人々は少ないかも知れないが、いつ失業するか、自分がもらえるまで年金は大丈夫なのかーなどの経済的な不安感がある。金持ちにはなれなくとも、現在の自分の生活だけは守りたいとの意識が強くなった。

 第2に、多発するピッキングなどに代表されるように個々の生活の場が安全ではなくなったとの意識がある。さらには北朝鮮のミサイル発射という漠然とした危機意識の扇動もあって、安全面での生活不安が助長された。

 第3に、大量の首切りや成果主義という名の個人間競争の奨励により、企業への所属意識が薄れ、その代わりの帰属意識の対象として国家が選ばれた。犯罪や北朝鮮から自分の生活を守ってほしいとの依頼心もある。そのため国家主義的な政治家の言動にも批判的な反応が薄れた。

 経済大国ニッポンとの誇りもなくなり、深刻なデフレ不況の中、社会の一体感が希薄になり、個人個人がばらばらになって、それぞれの生活防衛を最優先する。そのため、社会の方向性が失われ、政治家らのいいように政治が行われているのが現在だとの見方もできる。そうなると、現在は日本における民主主義の危機である。生活保守主義は民主主義に優先する?