望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

新型コロナと日常

 新型コロナウイルスの扱いが昨年5月から5類感染症に変更され、「通常」の病気扱いとなった。政府が感染者や濃厚接触者に外出自粛を求めることはなくなり、感染対策は個人の判断に委ねられ、感染の疑いがある人は特定の病院ではなく多くの病院での受診が可能になった(医療費は自己負担)。ワクチンの無料接種は終了し、自己負担となった。

 街中ではマスク着用者はいるものの、マスクを着用しない人が大幅に増え、飲食店などには賑わいが戻り、長い自粛期間の閉塞感の反動か国内での旅行需要が活発となり、海外からの観光客も加えて各地の観光名所は大混雑となっている。海外クルーズ船の日本寄港も新型コロナ流行以前に戻り、すっかり新型コロナ前の日常を回復した様相だ。

 新型コロナの感染は続いているが、インフルエンザの流行状況のほうが大きく報じられる。厚労省は毎週、新型コロナの発生状況を公表していて、最新の状況(4月1~ 7日)は、1医療機関当たり平均患者数は4.26人で9週連続で減少だ。10人を超えたのは秋田県で、青森県宮城県秋田県が8人台と北東北で感染者が多い。一方、東京都、広島県山口県愛媛県高知県、福岡県、熊本県が2人台と西日本で感染者が少ない県が目立つ。

 ただし、この感染状況は医療機関を受診した人数なので、現在は症状があっても受診しない人が少なからず存在する可能性があり、実際の感染状況をどれだけ正確に反映しているのかは不明で、大まかな傾向を表すものだ。なお、最新(4月1~ 7日)の入院患者数は1790人で、60歳以上が8割以上を占めるが、ICU入室や人工呼吸器の利用は全体の7%弱。

 新型コロナの流行で世界でも日本でも多数の死者を出した。未知の病気に怯えた当時の人々は世界各国で政府の厳しい対策に従ったが、経済活動が縮小し、多くの人々が離職を余儀なくされた。外出自粛が呼びかけられる中で医療従事者や介護福祉士、保育士、教職員、物流業者、清掃員、小売などの販売員、公共交通や電気・水道など生活インフラの従業員、ゴミ収集作業者、農業・漁業などの従事者、金融機関の職員などエッセンシャルワーカーとされる人々が社会を支えていると見直され、外出自粛の中で業務に精励する人々への賞賛の声さえ上がった。

 その一方、需要が激減したバスやタクシー、ホテルなど宿泊関連では人員削減が広がり、新型コロナ前の日常に戻ってみると運転手不足や人員募集難などが顕在化し、新型コロナ後遺症は尾を引いている。真っ先に人員整理の対象になった人々が、新型コロナ前の日常に戻ったからといって、以前の職業に戻ることを歓迎する気にはならないだろう。新型コロナは人々の心情を変化させ、社会の変化を促した。

 新型コロナは世界で、日常が実は不安定な状態にあることを可視化した。今日と同じ穏やかな明日があることを当然だと人々は思っていただろうが、新型コロナは日常がいつでも非日常に転換することを示した。日本などの人々は地震により穏やかな日常が簡単に失われることを知っているだろうが、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻など地域紛争によっても膨大な人々が穏やかな日常から非日常に放り出された。新型コロナは、平穏な世界でも日常と非日常が紙一重であることを知らしめた。