望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

現実離れの施策

 新函館北斗駅から函館駅への北海道新幹線の乗り入れは、2030年の北海道新幹線の札幌への延伸開業と同時に実現することを目指しているという。すると、2030年の北海道新幹線の札幌への延伸開業の前に、新函館北斗駅函館駅間の三線軌条化の工事などが行われ、新函館北斗駅函館駅間を在来線の列車が走行することはできない。

 三線軌条化とは、在来線は狭軌(1067mm)であり、新幹線は標準軌(1435m m)であるため、狭軌の2本のレールの外側にレールを1本加えて、在来線も新幹線も走行できるようにしたものだ。新幹線も貨物列車も走行する青函トンネルなどで実際に存在している。

 新函館北斗駅函館駅間は現在、狭軌で特急「北斗」や普通列車、貨物列車が走っているが、新幹線を走らせるためには全面的な工事が必要になる。現在の枕木は狭軌に対応したものなので、標準軌のレールを加えるには長い枕木に交換する必要があり、場所によっては地盤の強化も必要になるだろう。現在の狭軌の外に1本のレールをただ設置すればいいいという安易な発想は通用しない。

 これは新函館北斗駅函館駅間を全面的に作り直す工事になり、相応の期間を要する。その工事期間中は、札幌駅から来た特急「北斗」は新函館北斗駅止まりとなり、函館に向かう乗客は車かバスに乗り換えることを強いられ、札幌などに向かう乗客は函館から新函館北斗駅に車かバスで向かうことを強いられる。路線バスが函館駅新函館北斗駅を結んでいるが、かなり時間を要することに加え、本数が少ないのでバスは相当の混み具合になり、多くの乗客は立ったまま我慢を強いられよう。

 道内の各地から来た貨物列車は大沼駅七飯駅を経由して五稜郭駅に着き、そこから海峡線を経由して本州に向かう。新函館北斗駅函館駅間には七飯駅五稜郭駅があり、工事期間中は貨物列車の運行が止まるだろう。北海道新幹線の札幌延伸開業に伴って長万部駅以南の並行在来線の存続が議論されているが、道内から本州への貨物列車の運行を確保することが重要視され、貨物専用線としての存続が有力視されている。

 だが、新函館北斗駅から新幹線を函館駅に走らせるための工事で、貨物列車が運行できないとすれば長万部以南の並行在来線の存続議論に影響を与える可能性がある。加えて、道内各地からの貨物列車は大量の野菜などを本州へ運んでいるのであり、函館駅への新幹線乗り入れ工事のために貨物列車の運行がストップしたなら、道内各地の生産者から函館市は厳しく批判される。

 新幹線の函館駅乗り入れは、特急「北斗」を利用する人々に過大な迷惑をかけ、貨物列車の運行に支障をきたす愚かな施策といえる。こうした施策のためにコンサル会社に大金を払って調査させたり、市役所職員を動員して案を具体化させたりするのは壮大な浪費でしかない。北海道新幹線をPRして観光客を増やしたいのなら、北東北各県と協力して「北東北〜道南」観光キャンペーンを首都圏で頻繁に展開するほうが効果があるし、すぐにでも実行できよう。