望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

リスクをとる日本人

 30年以内に70%の確率で起きる可能性があるM7級の首都圏直下地震により、最悪の場合、死者が2万3000人、経済被害が約95兆円に上るとの想定を国の有識者会議が2013年に発表した。冬の夕方で風が強い場合、全壊または焼失する建物は61万棟で、うち火災で焼失するのは約41万棟となり、死者2万3000人のうち1万6000人は火災による死者とされた。

 負傷者は12万3000人、避難者数は720万人と想定され、約5割の地域で停電となり、都区部の約5割で断水し、開通するまでに地下鉄は1週間、私鉄・在来線では1カ月程度を要し、道路はガレキや放置車両などによって深刻な交通障害が発生する見込み。経済被害の約95兆円の内訳は建物等の直接被害が約47兆円、生産・サービス低下の被害が約48兆円。

 首都圏に住む人は誰でも首都圏直下地震が発生した時に、想定される死者や負傷者、あるいは避難者に含まれる可能性があり、停電や断水などライフラインの途絶に遭遇する可能性はさらに高いだろう。首都圏に住む人は、発生する可能性が高い現実的なリスクを承知で住んでいるといえる。

 時期は不明だが大地震が発生する可能性が高いリスクにもかかわらず、首都圏に住む人は多い。パンデミックでリモートワークが普及したことにより郊外などへの転出が増えたともいわれるが、大地震の可能性を理由にした首都圏からの脱出・転出は目立ってはいない。

 株式投資が少なく、貯蓄が多い日本人はリスクをとらないなどともいわれるが、実は日本人はリスクをとる人々だ。大地震が発生すれば生命の危険があり、生き延びたとしてもライフラインも公共交通網も寸断され、就業先も被害を受けるなど大地震後の生活が不安定化する可能性が高い首都圏に人々は集まり、暮らしている。

 大都市が大地震に脆弱だということは阪神大震災における神戸の被害が実証した。だが都市での生活は利便性が高く、就業機会も多く、歓楽街もあるなど魅力的で、魅力がリスクを上回ると感じて人々は首都圏に集まり、住む。火災で約41万棟が消失し、1万6000人が火災で死亡するという首都圏直下地震の想定にもかかわらず人々は、首都圏に住むリスクを引き受ける。

 とはいえ、東南海地震南海トラフ地震)や千島・日本海溝地震などの発生も確実視され、被害は大規模になるとの想定も公表されている。さらに全国どこでも断層が動けば直下型の地震になる。首都圏だけではなく日本全国どこでも大地震のリスクがあるのだから、日本列島で生きる人々は皆、リスクをとって暮らしていることになる。リスクをとる日本人とは、首都圏に住む人に限られるわけではない。