首都直下地震の発生確率が高いと報道された2012年、関東では防災商品の売れ行きが伸びたという。東日本大震災では関東もけっこう揺れたから人々に切実感があったんだろうな。でも、非常用食品などを買いためておけば安心かというと、それは分からない。「その時」に、どんな被災状況になるのか誰にも見えていないのだから。
想定はある。中央防災会議は、東京湾北部を震源とするM7.3の地震が起こった場合(冬の夕方、風速15m)、建物被害は約85万棟(火災消失が65万棟、揺れによる全壊は15万棟など)、死者数は約1万1千人(火災による死者6200人、建物倒壊による死者3100人など)とした。これらの数字は、震源の位置、日時の設定等で大きく変化するので、目安でしかないが。
そんな中で東京で大規模な帰宅困難者対策訓練が実施され、東京、新宿、池袋の各駅周辺で約2万人が参加して、伝言サービスでの家族との連絡や一次滞在施設への移動などを行った。一斉帰宅せずに地震発生直後は会社等にとどまることが重点という。東日本大震災では首都圏で500万人以上の帰宅困難者が出たことを受けて、次の地震の時には、人々がむやみに動かず、会社や各種施設で待機するように意識づけをすることが目的だったようだ。
一次滞在施設等へは、参加者が交流サイトで検索して移動したそうだが、首都直下地震の発生時にも基地局等に損傷はなく、都内で携帯は機能するという想定らしい。さらに、駅周辺では火災が起きず、人が溢れたりもせず、駅や会社や一次滞在施設等の建物に損傷もなく、そこでは帰宅困難者が待機していられる状況ということらしい。「実際」の時もそうなら、いいが。
直下地震に襲われた時に東京などは、どんな状況になるのだろうか。参考にするなら、阪神大震災の時の神戸だ。神戸では、木造住宅はつぶれ、各地で火災が発生し、傾いたり損壊したビルがそこここにあり、高速道路が倒れ、鉄道網は寸断された。地面には地割れが走り、道路にも瓦礫が散乱した。
福島原発の事故では、想定外という言葉が持ち出され、「起きない」ものと最悪の事態から目をそらしていた原子力ムラの実態が明らかになった。首都直下地震の訓練だとしながら、携帯は使用できるし、火災も発生しないし、ビルや建物に損傷はなく、負傷者も出ておらず……などという想定での直下地震訓練にどれほどの意味があるのだろうか。東京都もやがて、想定外という言葉を使って自己弁護するのだろうか。
直下地震であろうと何の地震であろうと首都圏が大きく揺れた場合、大量の帰宅困難者が発生するだろうから、備えや支援は必要だ。各地に一次滞在できる空間を確保し、食糧や水や情報提供網を確保しておくことも必要だろう。そうした対策と、甘い想定の訓練を実施することとを同列に見るわけにはいかない。帰宅困難者対策訓練は行政の、直下地震に対する危機感の緩さを示している。