望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

それだけで済むのかしら

 こんなコラムを2005年に書いていました。

 首都圏で直下型の地震が起きると、1万数千人が死亡し、全壊・半壊家屋が80万棟台になり、自宅に住めなくなる人は約700万人、約460万人が避難所で暮らさざるを得なくなり、建物・道路・水道・ガス網などへの直接被害が約67兆円(建物が約55兆円)、生産停滞などの間接被害が約45兆円になるという想定を政府の中央防災会議が公表した。


 この手の被害想定額は不安を煽るとして従来は内密にされていたが、現実に阪神大震災が発生し、神戸などに多大な被害(直接被害は約10兆円)が出たのを見せつけられると、隠しておくこと=想定される地震に対して何の対策も考えていない、と受け止められかねないとの懸念が大きくなって公表するようになったのだろう。また、直下型地震の被害が大きすぎて政府の手に余る、つまり「直下型地震に皆さん、備えて下さい。政府が何もかも助けることはできませんよ。そこのところ、よろしく」ということだ。


 阪神大震災では、高速道路が倒れ、ビルの中層階がつぶれ、ペンシルビルは傾き、1階がつぶれた木造家屋は珍しくなく、ぺしゃんこになった木造家屋も多かった。また、アスファルトで覆われた地面には細かなひび割れが縦横に走り、起伏のできたところもあって、一帯が焼け野原になった区画も多かった。あの状況を首都圏にあてはめれば、公表された数字は“控えめ”なものかもしれない。


 例えば、早朝の阪神大震災では六千人以上が亡くなったが、首都圏の直下型地震阪神大震災の2倍程度の死者ですむのか、いささか疑問がある。交通被害を見ても、脱線などにより新幹線・在来線・地下鉄で300人の死者が予想されているが、日中ならばゼロがもう一つ加わるだろう。


 今回の被害想定額112兆円は日本の国家予算を上回る。GDPの約4分の1にもなり、首都圏に企業の本社が集中していることを考えると、首都圏直下型地震は日本経済に相当のダメージを与える。当然、政府から具体的対策を早急に進めるとの表明があるかと見ていたら、ない。目の前にある危機に備えず、改憲論議をもてあそんでいる政治家に日本はつぶされるのだろう。