望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





「後押し」は危険

 

 2013年の1月に首都圏では何度か雪が降った。そのたびに、降雪による交通事故や歩行者の転倒などの事故が相次ぎ、成人の日の降雪では1都3県で4百人以上がけがをし、首都高は長時間、通行止めとなり、JRなどで運休が相次いだ。28日の降雪では千葉で車のスリップ事故が相次ぎ、成田空港は除雪作業に追われた。



 降雪で混乱する首都圏の様子を伝えるTVニュースの映像で、気になるものがあった。それは、坂道を上ることができない車の後ろから数人が押していた映像。車のタイヤが空回りしたりして、なかなか、上ることができない様子を伝えていた。冬タイヤに履き替えておかず、チェーンも持っていないから、こうなる……という混乱ぶりを示すための映像なのだろう。



 でも、坂道を滑って上ることができない車がいた場合、坂道で車の後ろから人が押すのは危険だ。雪や氷などがある路面で、押している人が滑って転倒すれば、車がジリジリと坂道を下がってきて轢かれる可能性がある。ブレーキを踏んでも、坂道で、滑る路面に、滑るタイヤでは、車は重力で下がってくる。



 雪や氷の路面でスリップして動けなくなった車は、チェーンを調達して装着するのが最善の対策。チェーンを持っていないから、人が車の後ろから押すのだろうが、上り坂は危険。押すなら、平坦な道路に車を移動させてから、押すべき。下り坂では車を押しやすいが、車が滑ってコントロールできないままなら、やはり危険だ。



 TVのニュース番組では、そんな映像を流しながらも、危険性を指摘するコメントはなかった。おそらく、そんな映像を「雪による混乱が目に見えて、分かりやすい」などという判断で流したのかもしれないが、その状況が意味するものに考えが及んでいないことを示している。そういえば、歩行者が転倒する映像もけっこう流していたが、どういう路面で転倒しているのかといった具体的な情報提供は欠けていた。



 首都圏での降雪は想定外ではない。降雪は毎年あり、以前はもっと雪の量が多い年もあった。いつか起きるとされる首都直下地震への備えの必要性が東日本大震災以降、声高に唱えられるようになったが、降雪はほぼ確実に毎年あるのだから、備えるべき。例えば長靴があれば、豪雨の時にも大地震の時(晴れているとは限らない)にも重宝する。