望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

動ける人から動け





 2011年の東日本大震災では首都・東京のもろさがアラワになった。長い揺れが続いた震度5強だったが、鉄道の運行が止まり、JRは終日、復旧せず、多くの人が帰宅難民となって、数時間歩き続けた人やら会社等に泊まった人やら混乱した。そして、計画停電。停電になって都市機能の多くが機能しなかった。

 東京への一極集中を促進しつつ日本の経済成長が続いて来たのだが、その一極集中の脆弱性を今回の大震災は直撃した。政治の中心は東京、経済の中心も東京、文化発信の中心も東京、情報発信の中心も東京、ついでにIT企業の集積地も東京……ネット環境が整備されたのだから、IT企業こそ自然豊かな地方に立地すべきなのにね。



 かくして、懸念されている東京湾北部を震源とする地震などの直下型地震が発生したなら、阪神大震災後の神戸の光景が東京中に広がる。各地にある高層ビルは耐震性が確保されているとはいっても、中小ビルには傾くものもあろうし、電車が止まり、道路には亀裂が走り、方々の住宅密集地等で火災が発生する。そうした中に数百万単位の人間が残される。



 東京がマヒするということは、日本の政治、経済、文化等がマヒすることでもある。地震は自然災害だが、国土形成は人間のやることだ。直下型地震が来てから「東京への一極集中が地震に、こんなに弱いとは想定外だった」と言っても、そんな言葉は通用しない。今回の大震災で直下型地震のもたらす影響を十分に想定できるのだから。



 今回の大震災後にメディアに東京への一極集中の脆弱性を指摘する見解が多く見られた。ただ、地方に機能を分散すべきだと警鐘を鳴らすものばかりで、どこか、のんびりしていた。政治家や官僚が一極集中是正へ動くことを要望・期待しているような気配さえあった。



 でもね、政治家も官僚も動くまい。東京への一極集中を是正する必要性については、政治家や官僚はおそらく理解しているだろう。でも合意形成して実現するまでには10年単位の時間がかかるかもしれず、「誰かがやるさ」と誰も動かない。自然がそれまで待ってくれるかどうかは誰にも分からない。



 政治や行政が動くことを待っていては、時間がかかりすぎる。東京への一極集中のリスクを見据えて民間は自己判断で動くべきだ。直下型地震で事務所や工場等が被災し、道路も鉄路も混乱、大勢の社員が「足」を奪われ、通勤もままならず、更に社員の家族が被災し、事業継続が困難になっても、政府補償などない。民間が自己判断で東京を脱して、直下型地震のリスクを分散し、「自分の身は自分で守る」しかあるまい。