望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

水戸黄門、どこへ行く

 42年間放映されていたテレビ時代劇「水戸黄門」が2011年で放映終了になり、黄門さまの旅が終わった。「いつも午後8時46分頃に印籠を出すんだ」などの話があり、そんなマンネリ時代劇が42年も続いた。マンネリ化すれば飽きられて、打ち切りになる……のが普通だろうに、42年も続いた。マンネリが「定番」としての安定感につながり、さらにマンネリも度を越すと、マンネリが強みに転化するのだろうか。



 不正を暴こうとする武士が襲われたり、農民・庶民が迫害を受けているのを、通りがかった黄門一行が助け、探って行くうちに、悪代官と越後屋が結託して私腹を肥やそうとしていることが判明、黄門一行が代官屋敷に乗り込んで大立ち回りの後、黄門が「もう、いいじゃろう」。そこで印籠が出て来る。



 印籠を見せる時の台詞はいつも同じだ。「ここにおわす方を何と心得る。先の副将軍、水戸光圀公であらせられるぞ。御老公の御前である。一同、頭が高い。控えおろう」。悪代官や越後屋は「しまった」という顔を見せてから平伏し、黄門一行に助けたもらっていた人々は「えっ、この爺さんが!」と驚愕した表情を見せてから平伏する。



 こうした展開が、土地を変えて、登場人物を変えて、毎回繰り返される。だから、途中から観ても話に入って行くことができる。誰が悪人で誰が善人なのかはすぐ分かるし、その後の展開も想像できる。でも、2時間ドラマの謎解きものだったなら、誰が悪人か、話の展開がどうなるかーなどが分かってしまえば、視聴者を引きつけ続けることはできまい。



 マンネリだからこそ「水戸黄門」は続いたのかもしれない。42年というと視聴者は2、3世代は入れ替わっている。時代劇映画になじんでいた世代が少なくなり、テレビで時代劇というとNHK大河ドラマしか観たことがない世代が多くなると、マンネリの強みが消え、マンネリが退屈なものとしか見えなくなって、飽きられたのかもしれない。



 黄門さまの旅は終わり、テレビから時代劇ドラマは消える。テレビのシナリオライターの主力は30~40代の女性だと聞いたことがあるが、おそらく時代劇(映画を含めて)作りの伝統みたいなものを継承していないんだろう。テレビから時代劇が消え、韓流ドラマが増殖するばかり。本を読む時間が増えるのはいいことかもしれないが。