望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

実態は無法地帯

 昨年はロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻、アゼルバイジャンのナゴルノ=カラバフ占領など、支配地拡大を目指す軍事行動が公然と行われた年だった。国連憲章で許される戦争は①侵略された国が行う自衛のための戦争、②国連軍による戦争ーの2つだけだが、安保理はまとまらず、ロシアやイスラエルに対する非難決議さえ出すことができない。

 こうした軍事行動を国連は傍観するだけで無力さを露呈したのだが、都合がいい時には国連を利用し、都合が悪ければ国連を無視する諸国の振る舞いは昨年から始まったことではない。例えば、1999年に米欧で構成するNATOユーゴスラヴィア空爆を行ったが、国連の決議はなく、国際法国連憲章を無視した戦闘行為だった。

 民主主義国も権威主義国も、国際社会の安定を軽視する行動を行ってきたことは歴史が示す。自国の利害や時の指導者の意向次第で各国は国際社会で好き勝手に振る舞ってきた。もちろん、そうした行動をとることができるのは軍事的かつ政治的に国際社会で強い位置にいる国々で、例えば、日本などは国際社会で好き勝手に振る舞うことは米国などから「許されていない」ようだ。

 ロシアやイスラエル、さらには中国など自国の利害を優先して行動する国々を米欧は強制力を持って制止することができないことが明確化したのも昨年だった。民主主義など欧米が持ち出す崇高な理念がもはや現実世界において説得力が弱まり、米欧の国際政治における影響力は減退し、欧米に対するグローバルサウス諸国の求心力は後退し、欧米と権威主義諸国とのあからさまな対立が目立つようになり、国際社会は分裂の様相を濃くした。

 軍事行動による支配地拡大などが実質的に容認されるようになった世界で、「それなら我が国も!」と軍事行動によって近隣国と争っている問題の解決を目指したり、支配地拡大に動く国が現れる可能性が少し大きくなったとすると、これから世界の各地で紛争が増えることになる。欧米とロシア・中国の対立が続くなら、国連の無力さは維持されるだろうから、増えた紛争は放置される。

 国際社会は無法地帯である。これまでは国連や国際法などによって一定の秩序が保たれているとのイメージがあったが、ロシアやイスラエル、中国などの行動がそうしたイメージは幻影だと暴いた。それが一過性の動きなのか、世界の構造的な変化が可視化され、世界の実態は無法地帯だとはっきり見えるようになったのか、2024年の世界を見る一つのポイントだろう。

 ※国連憲章は第1条で国際連合の目的の最初に「国際の平和及び安全を維持すること」を掲げる。第2条では「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない」とし、第42条は「安全保障理事会は(中略)国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含む」、第51条は「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には(中略)、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」とする。