望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

戦勝国と秩序

 第二次世界大戦終戦したのは77年前の1945年だ。第二次大戦の戦勝国は、全体主義に勝利したとの道義的優越性を漂わせ、第二次大戦終了後の世界の秩序は勝利した連合国が主導した。戦争に勝った側が「正義」を独占する国際秩序だったのだが、戦勝国の行動がいつも「正義」に沿っていたわけではない。

 道義的優越性や「正義」の解釈は戦勝国だけが行うことにより、この国際秩序は維持される構造だ。戦勝国から5カ国が国連安保理で拒否権を持ち、国連を支配しているのが実態だから、5カ国の行動に対して安保理も国連も無力である。その5カ国は第二次大戦後にそれぞれ、道義的優越性など見当たらない醜い戦争や軍事介入を各地で行ったが、戦勝国が主導する国際秩序は維持されてきた。

 米英ソが中心となって形成された国連は、その憲章の前文で「言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い」「正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し」「寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し」「国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ」「共同の利益の場合を除く外は武力を用いない」ことなどを決意して、国際機構を設けると宣言している。

 第二次大戦の大規模な惨害に直面したり体験した人々が戦争に対する強い拒否感を持つのは当然で、そうした感情は戦勝国の政治家も共有していたに違いない。それが平和共存を目指す国連を誕生させたのだが、やがて戦勝国の政治家は、国益を最優先することや国際的な影響力を高めるために自国の軍事力の行使を正当化するようになった。

 戦勝国主導の国際秩序は戦勝国の5カ国を縛らない。これが現在の世界であると世界は気付いていたが、安保理で5カ国が拒否権を持っている限り国連の改革は限定され、5カ国の地位に関する変更は不可能だ。それは5カ国が、国際秩序を無視して、思うがままに振る舞うことができることを許している。

 今回のロシアのウクライナ侵攻は、ロシアの自衛のための戦争ではなく、国連決議を経た戦争でもない。国連が認めない戦争なのだが、ロシアの行動に対して国連は無力である。残念な事態だが、国連は5カ国が行った多くの戦争や軍事介入に無力だったので、今回が特別に国連の無力さを曝け出したというわけでもない。

 5カ国は第二次大戦後の国際秩序をそれぞれ自国に有利に活用してきたが、今回のロシアのウクライナ侵攻でその身勝手さが再認識されよう。5カ国は何をやっても罰せられることはないというのが現在の国際秩序なのだが、今回はロシアに対して米英EUと西側の同盟国などが制裁に動き、第二次大戦後の国際秩序に亀裂が現れた。形骸化した国際秩序を新たに構築する機会だ。