2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナ南西部などで激しい戦闘が続いていて、終戦や停戦に向かう動きは見えない。ウクライナには欧米諸国が武器弾薬などを供与して支援し、戦力的に優位と見られたロシアも消耗戦は想定外だったのか、諸国から武器弾薬を調達していると見られている。
ウクライナへの欧米諸国からの武器弾薬の支援が続き、ロシアにウクライナ全域を戦場とするのに十分な兵力がない場合、この消耗戦は続きそうだ。だが、ウクライナへの欧米諸国からの武器弾薬の支援が滞ると、戦局は次第にロシア有利に傾くだろう。劣勢になったウクライナが停戦を求めるには、おそらく現ゼレンスキー大統領の辞任が必要になる。
イラクのクウェート侵攻に対して国連はイラク軍の撤退を求め、多国籍軍を認可し、多国籍軍がクウェートを解放した。だが、安保理で拒否権を有するロシアに対して国連の軍事的な強制措置は不可能であり、ロシアがウクライナを占領したとしても欧米諸国は批判することと経済制裁を続ける以外にできることはない。つまり、勝利したロシアを罰することはできない。
ロシアの勝利が意味するものは、①武力による他国への侵攻・占領が許容された、②武力による国境変更が許容された、③武力による国際紛争(隣接国との対立など)の「解決」が許容されたーなどだ。つまり安保理5カ国やその同盟有力国などの他国に対する軍事行動には国連は動くことができず、さらに軍事力の比重が増大する世界になっていく。
ロシアの勝利は世界を変える。第一に、戦時下の体制として権威主義体制の優位が強調される。それは権威主義諸国の体制を正当化することに役立つとともに、権威主義体制を持続させるために他国との緊張を高めることが促され、国際情勢はますます混沌としたものになる。権威主義体制の優位の強調は、中国やロシアの影響力の増大につながる。
第二に、民主主義が普遍的な価値観であるとの信仰が揺らぐ。多様な価値観を許容する民主主義の国では国内が分裂状態になっていたりするが、社会に連帯感が希薄な民主主義は国家防衛に非力であると見なされれば、民主主義に代わる体制を求める動きも出よう。これは権威主義体制の優位の強調と相まって生じる現象かもしれない。
第三に、軍事力強化のために各国は軍事産業の育成・強化に励み、ウクライナ侵攻で威力を発揮した武器の備蓄を進めるだろう。同時に国際的な武器市場が拡大し、武器貿易が活発化する。また、軍事力行使のハードルが下がり、戦争や紛争が増えることになれば、防衛のために核兵器を新たに持とうとする諸国の動きもおそらく活発化する。