望潮亭通信

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互いに特別軍事作戦

 ロシアは今回のウクライナ侵攻を特別軍事作戦と称している。ウクライナ国内において現実に行われているのはロシア軍とウクライナ軍の戦闘であり、実態は戦争なのだが、ロシアは特別軍事作戦とする。戦争と特別軍事作戦の違いをロシアは説明していない。

 ロシアは、ウクライナNATO加盟を阻止することやウクライナ西部におけるロシア系住民の保護を特別軍事作戦の目的だとする。国連が容認する戦争は①侵略に対する自衛戦争、②国連決議を得た軍事行動ーだけなので、ロシアはウクライナ侵攻を戦争と呼ぶことができないのかもしれない(ロシア国内で戦時体制を宣言しないためだとの説もある)。

 ウクライナの占領を目的にしていないとロシアは主張したが、ウクライナ侵攻を開始した直後のロシア軍の行動は首都キーフを陥落させる目的だったことは明らかだ。だが、それは失敗し、ロシアはウクライナ全土の占領を諦めざるを得ず、ウクライナ南西部の占領に戦略転換したと見える。だが、ウクライナ軍の攻勢に耐えているのがロシア軍の現状のようだ。

 ロシアはウクライナとは民族的に「近い」ことも主張していて、スラブ民族の大帝国(=ロシア帝国)の復活を目論んでいるとも映る。特別軍事作戦がロシアから離れた旧ソ連構成国の「回収」を意図するものならば、ウクライナ侵攻もロシアにとっては、独立国間の戦争ではなく、一種の内戦だと位置づけられる。

 12月初旬、ロシア領内のモスクワ近郊などにある2カ所の空軍基地や石油貯蔵施設がドローンによる攻撃を受けた。ウクライナ軍によるロシアへのドローン攻撃と見られ、ウクライナ外相は「ロシアがウクライナで何をしてもよい一方で、ウクライナには同様の権利がないという考え方は道義的にも軍事的にも誤りだ」と述べ、ウクライナ軍はロシア領内を攻撃する権利があると主張したと報じられた。

 ウクライナロシア帝国内の部分ではなく、ロシアとは別の独立国であるとの意識を持っているだろうから、今回のロシア領内に対する攻撃はウクライナからは戦争における行為だろう。だが、特別軍事作戦を行っているロシアにとっては、ウクライア軍のロシア領内に対する攻撃は戦争ではなくウクライナから特別軍事作戦をやられたことになる。

 戦争とは違うというロシアの特別軍事作戦において、ウクライナでは多数の死傷者が確認され、ロシア軍においても死傷者数は相当になると報じられる。補給の軽視や作戦立案の稚拙さを露呈したロシア軍にとってウクライナにおける特別軍事作戦は、当初の目論見通りに現実は進行しないという貴重な経験をもたらした。「失敗」から教訓を得ることができれば今回の特別軍事作戦はロシアにとって意味あるものとなるだろう。