望潮亭通信

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様々な主権国家

 プーチン大統領が若者との対話集会で、主権を持たない国は「厳しい地政学的争いの中で生き残ることはできない」と述べたという。報道によると、プーチン氏は、米国など他国の影響力を排し、独自の判断ができる国を「主権を持つ国」と呼び、「指導的役割を求める国なら主権を確保する必要がある。主権ある決定ができない国は植民地であり、その中間はない」とした。

 プーチン氏は自国ロシアは主権国家だが、米国の軍事力に頼るNATO加盟のドイツや日本などは主権国家ではないと批判した。他国に頼らず自前の軍事力で自国を防衛できることを主権国家の条件とするプーチン氏は、国家の主権は軍事力によって保証されると考えているようだ。だが、主権国家ロシアを支える自前の軍事力が他国への侵攻にも使われているように、軍事力は「祖国防衛」を口実に暴走する。

 国家の主権は「領域内において持つ排他的支配権」とされ、その権利により国家は①国民および領土を統治する、②他国からの干渉を受けずに独自の意思決定を行う、③国家意思を最終的に決定する。主権国家は独立国のことであるが、米国の強い影響下にあって従属しているように見える諸国をプーチン氏は主権国家ではないとおとしめた。

 ロシア軍の侵攻を受けているウクライナは独立国であり主権国家だ。首都キーフの占領を当初目指したロシアの行動は、ウクライナという主権国家の存在の否定だ。ロシアにはウクライナに侵攻する権利があり、ウクライナには独立国であり続ける権利はないというのは一方的な主張だが、プーチン氏のロシアは国家主権を都合よく解釈してウクライナ侵攻を正当化する。

 台湾は前記の①②③を満たすので主権国家である。だが、台湾を独立国として承認する国家は少数だ。台湾は国家主権を現実に行使しているが、中国が台湾の独立を強く否定するため、台湾の国家主権は国際社会で「見ないふり」をされている。国家主権は他国からの相互承認により確認されるのが現在の世界だが、他国から承認されているウクライナの国家主権をロシアは否定した。

 ロシアのウクライナ侵攻を見てフィンランドスウェーデンNATO加盟申請に動いた。独自の軍事力が限られている国が軍事同盟に参加するのは主権国家による判断であり、米国の影響下に入るというのも主権国家の判断であろう。プーチン氏の主張する「主権を持つ国」の侵攻に対抗するため、欧州の主権国家NATOに結集する状況になった。

 ウクライナの国家主権はロシア軍の侵攻に脅かされているが、人々がロシア軍に対する抵抗を続け、ウクライナの国家主権は維持されている。ロシアがウクライナ東部を完全に占領してもウクライナは解体せず、その国家主権は維持されるだろう。一方、プーチン氏が主導する主権国家は、独自の判断が誤った判断だと世界各国から批判されても、それを修正すると誤りを認めることになるので、勝利を目指して戦い続けるしかない。独自の判断の責任をウヤムヤにするのは主権国家に珍しくない。