望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

いい男ねぇ 

 こんなコラムを2001年に書いていました。

 男に食い物にされる女がいる。恋愛だと女は思い込んでいるが、頼まれては金を貸し、最後には捨てられる。男のほうは適当な遊び相手で金づるとしか思っていない。恋愛にのぼせてしまってそうなるのかというと、心理学的には、そう扱われることを女のほうが求めているのだという。だから、そんな女はそんな男を引き付ける。

 銀座の歩行者天国を歩いていた時、すれ違った中年女性2人の会話の一切れが耳に入った。「小泉さんって、いい男ねぇ」。

 どんな会話が前後にあったのかは判らないが、買い物に出て来た風情の中年女性が政治家の話をしながら銀ブラしていることに驚き、次に「いい男ねぇ」と1票を間違いなく投じそうな話しっぷりに驚いた。1票どころか2票でも3票でも、ありったけ投じるな、あの様子じゃ。

 日本の財政は、宮沢前大蔵大臣が「破綻状態だ」とポロっと漏らしたように、動きがとれなくなっている。景気は低迷したまま株価も下がって、銀行はじめ含み益に頼っていた日本企業はますます苦しくなっている。「改革」なんぞ、しなくったって、こんなデフレ不況が続くなら「痛み」には止めどがあるまい。「改革」と政治家が旗を振ってくれるから、「痛み」を企業は正当化できる。中身のない「改革」を政治家が強調するのは、現にある「痛み」を誤魔化す手助けかもしれない。

 「痛み」の内容を問われて小泉氏はじめ与党は、「失業者が増えるだろうが、次の仕事に就けるように変えていかなくてはならない」などと言って済ます。現実には人件費削減を目標に、給料の高い中高年対象にリストラで失業者が増えている時に、彼らに用意される「次の仕事」は、アルバイトなみの低賃金か、歩合のセールス。

 デフレ不況とは、物価が下がりつつ経済が縮小していく状態であるから、雇用は増えない。ITだの何のと政府は幻想を振りまくが、ぼろ儲けしているNTTに通話料を下げさせることも出来ない。現在のデフレ不況下、政府が「改革」に伴う失業対策をするというのなら、抜け穴だらけ(に多分なる)セーフティネットだけでなく、現実的に雇用を増やすことを第一に考えねばならないが、そんな具体策は聞こえて来ない。

 政治に食い物にされることに馴れてしまった人々、「いい男ねぇ」の先の2人だけでなく、政治に騙されるのは主権者たる自分の責任です。尻拭いは誰もしてくれない。