望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

相手に非があるとの論法

 自分の行動が批判されたときに、自分の行動を正当化する手っ取り早い方法は、相手が先に何かを仕掛け、それに対応しただけだとして相手に非があると主張することである。相手が反論したなら対応は、①客観的に検証する、②頑に相手の非を主張し続けるーに分かれるが、自分が不利になる可能性があるので客観的な検証は歓迎されなかったりする。

 偶発的な争いなら双方が主張をぶつけ合って決着がつかないまま別れることもあるが、知り合い同士などでは禍根が残り、その禍根が新たな対立につながったりする。禍根が積み重なると相手の非を双方がいくらでも挙げることができるようになって、対立構造が続いていくことにもなる。こうした「相手に非がある」論法は国家も用いる。

 ウクライナ侵攻を始めたロシアのプーチン大統領はその理由を、第一にNATOの東方拡大がロシアの現実的な脅威になっている、第二に親ロシア派組織が占拠しているウクライナ東部でロシア系住民をウクライナ軍の攻撃から守るーなどとしている。西側諸国やウクライナ政府に非があるから、ロシアやロシア系住民を守るために軍事行動を始めたとする。

 侵攻直前の演説でプーチン氏は「西側諸国の無責任な政治家たちが我が国に対し、露骨に無遠慮に作り出している根源的な脅威」があるとし、「世界覇権を求める者たちは公然と平然と、何の根拠もなく私たちロシアを敵国と呼ぶ」、ウクライナに「私たちに敵対的な『反ロシア』が作られようとしている」「我が国にとっては、それは生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である」「NATO主要諸国は目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している」などの文言を並べて侵攻を正当化した。

 ミサイル発射を繰り返す北朝鮮は、米韓が軍事演習を行ったことや米軍が空母を日本海に展開したことなどへの対応だと主張した。北朝鮮軍は「朝鮮半島の軍事的緊張を激化させる敵のいかなる挑発も絶対に認めず、徹底的かつ圧倒的な軍事的対応措置を講じる」とし、警告の目的でミサイルを発射したのであり、緊張を高めたのは米韓日の側だとした。

 軍事が絡んで国家が「相手に非がある」論法を用いる時、そうした主張で説得しようとする対象は自国民だ。そうした主張に相手国が動かされることはないだろうが、相手に非があると説くことで自国民の感情を誘導し、政権への求心力を高めるとともに相手側への敵がい心を強める。戦時体制を構築することは国家権力にとって統治に都合がいい。

 個人でも国家でも「相手に非がある」論法は、話し合いなどによる和解よりも対立を続けることを優先するために用いられる。だから「やられたから、やり返す」「言われたから、言い返す」などの連鎖が続き、こうした連鎖の中では少しでも相手への配慮を見せることは禁じ手となる。「相手に非がある」論法を自ら修正することは、自己の正当性が揺らぐことでもある。