望潮亭通信

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国家の主権の根拠

 プーチン氏は主権国家を「米国など他国の影響力を排し、独自の判断ができる国」と定義し、主権を持たない国は「厳しい地政学的争いの中で生き残ることはできない」と述べた。ロシアがウクライナに侵攻したのは、米国などの影響力を廃し、独自の判断で行動できる主権国家だから可能だったのは確かだが、プーチン氏流の主権国家は国際社会で危険な存在であることをも明らかにした。

 プーチン氏の定義による主権国家として思いつくのは、ロシアのほかに中国、北朝鮮、イランなどだ。米国からの自国への影響力を排し、米国と鋭く対立することも辞さない国々だが、米国と対抗できるように軍事力の増強に励む国々でもある。また、強権的な政治勢力が独裁して、人々を抑圧しているように見える国々でもある。

 ロシアの影響力下にあるベラルーシなど旧ソ連の構成国やシリア、また、中国の影響力下にあるカンボジアなどは「他国の影響力」を排していないので、プーチン氏の定義による主権国家には該当しないだろう。「独自の判断ができない」国々をロシアや中国、そして米国は自国の勢力圏として重宝したり、利用する。

 ベネズエラとフィリピン、ミャンマー、ブラジルなども米国の影響力を排した国家運営を行っているように見えるが、現在の権力者や権力を掌握する軍が米国と折り合いが悪いだけで、政権が変われば親米国に変わる可能性がある。親米国では米国の影響力が強いとも映り、プーチン氏などには主権国家ではないと見えるだけだろうが、自前の軍事力で大国に伍することができない小国はどこかと軍事同盟を結ぶしかない。

 政権が変われば国家関係が変わるのは、米国がいい例だ。トランプ氏が大統領だった頃、米国は北朝鮮の独裁者との融和的な関係の構築を模索し、トランプ氏はプーチン氏との対立を望まず、ロシアとの対立が先鋭化することを自重したように見えた。トランプ氏が権力の座から去って米国は北朝鮮やロシアとの対立関係を容認する方向へ舵を切った。独自の判断ができる主権国家は、民主主義が機能していなければ権力者の判断に振り回される。

 トランプ氏は国家よりも自分を優先して考えていた気配があり、国家の主権と個人に託された権力を混同していた可能性がある。主権国家において民主主義は国家主権に枠をはめるが、中国などのように人々に主権がなかったり、ロシアなどのように人々の主権が限定的な国では、国家主権は権力者に従属する(国家主権の行使に対する人々の検証・批判は封じられる)。

 「米国など他国の影響力を排し、独自の判断」を行う国にはほかにトルコやインドなどがある。自国の利益を最優先して、大国にも簡単には妥協しない。独自の判断ができるのは、相応の軍事力に加え、歴史の荒波の中を生き続けてきた人々の気概があるからだとも見える。主権国家の主権は、どこからくるか。国によって様々であり、主権国家の態様は、プーチン氏が主張するような単純なものではない。