望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

新冷戦の姿

 ウクライナに侵攻したロシアだが、欧米から武器などの支援もあってかウクライナ軍の反撃が優勢となって、ロシア軍の劣勢が欧米メディアで報じられる。死傷者の増加で兵員が不足したのかロシアは部分動員令により30万人を徴兵して増員せざるを得ない事態に追い込まれた(実際には100万人を徴兵するとの見方もある)。

 30万人をウクライナ侵攻に投入できたとしても、ミサイルや長距離砲など遠距離からの攻撃が主体となった戦場で、兵員ばかり増やしても戦況の打開にはつながりにくいだろう。それでもロシアが兵員の増派に動くのは、ウクライナに侵攻したロシア軍の大きなダメージを修復するとともに、ウクライナ軍に対して反攻するためか。肉弾戦も辞さずとロシア軍が想定しているなら、悲惨な戦場になりそうだ。

 2月24日に砲撃や空襲などで始まったロシア軍のウクライナ侵攻の結末はまだ見えていない。ロシア軍もウクライナ軍も決定的な勝利を得られず、こう着状態になってダラダラと戦闘が続く可能性もあるが、もしロシア軍が盛り返して、ウクライナ東部から占領地を広げ、ウクライナ政府を瓦解させてウクライナ全体を併合したとすると、世界の光景はどうなるか。

 プーチン大統領は7月に、ウクライナ侵攻により「米国中心の世界秩序は根本的に壊れ、欧米は既に敗北した」と述べたという。当時のプーチン氏は勝利を確信し、ウクライナに対して「戦場でロシアに勝ちたければ試してみたらいい」と余裕を見せるとともに、「戦闘が長引くほど和平合意は困難になる」と戦闘では負けないと信じきっていたようだ。

 もしロシアがウクライナ侵攻で勝利してウクライナ政府を瓦解させたなら、欧米主導の世界秩序は揺らぎ始めるだろう。欧米は軍備支援と対ロ経済制裁などでウクライナを支えたが、その効果が限定的だったことが明らかになると、途上国の民主主義を嫌う強権的政府の多くは、すぐにロシアや中国に近づかないとしても、欧米との距離を保ち、自国の利益優先を剥き出して動くようになるだろう。

 かつての冷戦は米国とソ連による世界の分割支配だったが、そこにはイデオロギー対立という側面があった。ロシアが勝利したなら、ロシアと中国という権威主義国と欧米など民主主義国による世界の分割支配という新冷戦の構図がはっきりする。経済大国になった中国をロシアが資源面から支援するので、経済力でも欧米と中ロは互角になる(ウクライナ侵攻が終わった後に欧州はロシアの資源を限定的にしか買わないだろう)。

 冷戦と新冷戦の相違点は、第一に各国の経済体制が資本主義である、第二に国境を越す人や情報の移動が(制約はあるが)自由、第三に中ロの富裕層は欧米に資産を移している、第四に欧米などにおける中ロの情報戦が活発ーなどだ。類似点は①政治的に妥協が困難、②軍事力を常に誇示する、③中ロにおける政権の正統性が希薄(主権が独裁者にあるのだから、正統性はあると独裁者は主張するだろうが)ーなどだ。

 ただし、ロシアも中国も個人独裁の色彩が濃いので、プーチン氏や習近平氏が政治舞台から退出した後も独裁的な政治が続くかどうかは未知数だ。両国にも民主主義などの価値観を共有する人々が存在するので、集団指導体制に移行したなら、欧米との緊張緩和に動く可能性はある(プーチン氏も習近平氏も69歳。どちらかの国で個人独裁が終わって欧米と協調路線に転じれば、残った国は孤立する)。