親ロシア派の武装勢力が占領するウクライナ東部のドネツクとルガンスクなどで、ロシアへの編入の賛否を問う住民投票が行われた。これは、ロシアが支配地域を併合するための儀式であり、「偽りの住民投票だ」と欧米各国は強く非難し、住民投票も併合も「決して認めない」とした。
中国は微妙な反応を示した。欧米などのロシア非難には同調しない姿勢は堅持する一方、住民の意思を問う住民投票で地域の独立や他国への編入を決めることにも賛成できず、言葉を濁すしかない。ロシアのウクライナ占領地での住民投票を認めたなら、ウイグルやチベットなどにおける住民投票を求める声を否定できず、整合性が取れなくなる。
中国はロシアと欧米の対立激化を眺め、言葉ではロシアを支援するが、欧米との経済関係に影響が及ばないように慎重に立ち位置を見定めてきた。トランプ政権以来の米国との対立が経済面から政治面まで広がり、欧州でも中国との関係を見直す動きが現れて中国は、言葉では欧米に対して強硬姿勢を維持するが、具体的な行動には強硬な姿勢は現れない。
9月に習近平国家主席とプーチン大統領は会談し、結束していく姿勢を強調したと報じられた。ロシア産の天然ガスや石炭などの中国への供給拡大などで一致し、中ロ間の貿易額を24年に2000億ドルに引き上げる目標を確認したという。ロシアの行き場のない天然ガスなどを中国は買い叩いて購入し、一部は欧州に再輸出していると見られるなど、欧米の対ロシア経済制裁を中国はうまく活用している。
ウクライナ東部などでの住民投票を欧米が「偽り」と非難するのは、投票が公正に行われたのか確認できないからだ。クリミア半島のロシアへの編入に賛成が9割以上だったという2014年の住民投票をG7は、正当性がないと認めていない。また、ウクライナ憲法では領土変更には国民投票を要することになっていることも、クリミアにおける住民投票の合法性を疑わせている。
独立国家内の住民が独自に地域の独立を達成したのが、国連の暫定統治下にあったコソボだ。2008年にコソボ議会が独立を宣言し、米やEU諸国などが国家承認した。当時、プーチン大統領は「米欧が独立を承認したコソボとクリミアは全く同じ状況にある」とし、米欧が後押しした2008年のコソボ独立を引き合いに出してクリミア編入を正当化した。
コソボで多数派のアルバニア系と対立するセルビア系住民が2012年にコソボ政府を認めるかを問う住民投票を行い、99.74%が「認めない」と答えたが、欧米などは無視した。住民投票の結果は「葵の御紋」ではなく、各国はそれぞれに支持したり支持しなかったり様々だ。つまり、自国の政策に好都合な住民投票の結果は支持するが、不都合ならば無視する。
だから例えば、スコットランドの独立について「どちらでもいい」と各国は中立を保ち、住民投票を見守るだけにとどめる。もし、中国のウイグルやチベットで独立の賛否を問う住民選挙が行われることがあれば、米ロをはじめ各国は活発に公式・非公式に介入するだろう。中国の弱体化が自国にとって有利か不利かを各国は真剣に考える。