望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

独立は自力で


 欧州のバルカン半島にあるコソボが独立を宣言してから10年以上経った。コソボ内で人々の独立機運が高まり、自力で勝ち取った独立……ではなく、NATO軍の介入・治安維持によってセルビアが抑え込まれ、いわば独立への「お膳立て」をしてもらって成し遂げた独立である。



 アメリカや欧州各国など60カ国以上がコソボを承認しているそうだが、国内に分離独立の動きがある国はコソボ独立に反対して、承認していない。中国がそう。コソボセルビアに属する自治州だったので、コソボ独立を承認すると、例えば中国はチベットウイグル弾圧との整合性が破綻する。



 独立はしてみたものの……農業や鉱業以外にコソボには見るべき産業はないといわれ、失業率は高く、経済的に自立できない。EUや米国からの巨額の資金援助が頼りというコソボは、成人しても親からの援助に頼り切っている子供のようなもの。



 EUや米国はNATO軍を介入させてコソボを独立に導いた経緯があるだけに、いまさらコソボを「自分の足で歩きなさい」と突き放すこともできない。コソボの独立を維持するためにはEUや米国は、治安維持軍を派遣し続け、資金援助を続ける。



 EUや米国の丸抱えによる独立ともいえるコソボ。お気楽な立場だとも傍目には見えるが、多数派のアルバニア人は少数派のセルビア系住民との民族対立を抱え、暴力の応酬の長い歴史もあって、EUや米国が引き上げた途端に暴力の応酬が再開するのは間違いなさそう。コソボの独立とは、民族紛争を押さえ込もうというEUや米国の直接支配のカモフラージュだった。



 似たような状況にあるのがイラクやアフガンだった。コソボとの相違点は、1)米などの介入以前に独立国であった、2)自立した政府がある(ずいぶん頼りないが)。



 米軍などが介入して崩壊させた治安を、その後に誕生した政府が、どうにか回復できれば米軍は引き上げるという図式は、たちの悪い冗談を見ているようだ。米軍介入の目的が当時のイラク政府、アフガン政府の排除にあって、民主主義がどうのと大義名分があれこれ掲げられたが、国際政治の実態は実はシンプルであることを示した。



 コソボは独立し、旧ユーゴスラビアは解体、チェコスロバキアは分離、旧ソ連からは多くの国が独立して、国境線の引き直しが欧州では、それぞれ実行された。一方、中近東やアフリカなど欧米の旧植民地では、内部に民族対立・紛争などを抱えていても、旧植民地のまま残っている国境線の引き直しは欧米が認めない。国際政治という名の下での、欧米による旧植民地への影響力行使(支配)は続いている。