望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

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 こんなコラムを2008年に書いておりました。

 え~、ロシアが南オセチアアブハジアの独立を承認したそうで。コソボに続いて、独立を求める少数民族の分離独立要求が国際的に認められる世の中になったのか、次はチベットウイグルか。と思ったら、そうは問屋が卸さない。欧米は独立を認めませんね。



 少数民族の分離独立なんて、まともに取り合う国なんて、ありゃしません。自国に好都合なら、独立を認めてあげます……てなところ。もちろん、自国に都合が悪ければ、独立なんて認めません。



 理屈は何とでもつきます。少数民族を「哀れな被害者」につくりあげるのは簡単。写真1枚で同情の世論を喚起できますからね。今回も、燃えている家屋を背景に傷ついた人を抱きかかえる人の写真が使われました。コソボの時には、森の中に遺体が散らばり、手前に赤ちゃんがいるという写真が使われました。構図が素晴らしく、あまりにも劇的な瞬間をとらえている印象的な写真は、いろいろ利用価値があるようですな。



 ところで、なんでグルジア軍から攻撃を仕掛けたんでしょうかね。アメリカは止めたけれど、グルジア側が聞かなかったともいわれますがね、グルジアにはアメリカの軍事顧問団が入っていて、特殊部隊も入っていたとも伝えられるのに、グルジア軍がアメリカの意向に逆らって動くことがあるのかしら。そんなに「骨がある」グルジア軍なら、ロシア軍の反撃を受けても簡単には引き下がるまいに。



 アメリカやイスラエルなどから支援を受けて「立派になった」グルジア軍は、晴れの舞台に臨んだのに「予選敗退」……。当然、アメリカはこの結果を予期していたはず。グルジアを被害者に、ロシアを悪者に仕立て上げて、対立を煽り、危機感を高めるという筋書き。プーチンがTVインタビューで言ったように、米大統領選で共和党候補者に有利になるようにアメリカが仕組んだという解釈は成り立つかも。



 グルジアを始め独立した旧ソ連の国とアメリカは軍事的関係を強めているという。ウクライナへの米基地設置を狙っているともされ、そういえばコソボにも米軍基地を置いていましたね。日本を含め西側マスコミではロシアの脅威ばかり強調されるんですが、黒海NATO艦艇が展開していたり、グルジアなどにアメリカなどが軍事支援を行っていたり。ロシア側から見ると、アメリカのほうから軍事的圧迫を仕掛けて来たように映るかも。



 今回のグルジア軍が動いたタイミングは興味深いですねえ。ロシアではメドベージェフが新大統領になり、首相になったプーチンはモスクワを離れていた、そのタイミング。新体制のロシアで、有事に軍の指揮がどうなるか。アメリカ側からすると、試すことができました。グルジア軍が攻撃を仕掛けた翌日、プーチン北オセチアに移動し、指揮をとったそうですし、メドベージェフ大統領は対外的アピールを担当した。軍を動かすのはプーチンだったんですね。



 今回、グルジアが得たものは何だったんですかね。南オセチアアブハジアには実効支配が及んでいなかったので、独立されたとしても同じこと。国際的に「被害者」と認められたといっても、新たな「被害者」は世界で続々出て来るんでしょうから、いつまでも同情を独占することはできません。アメリカとの関係強化が最大の成果といえそうだが、それもアメリカの意向次第。つまりグルジアは、軍事的に対米依存を強めるにつれて、政治的にも対米依存を強めざるを得ないことになりました。