望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

うまく行くとは限らない

 こんなコラムを2008年に書いていました。

 中国では地方政府の腐敗・権力乱用などがひどく、報道は規制されているが、以前から住民暴動が各地でかなり起きていると言われていた。それが最近、相次いで新華社や中国国内紙が暴動を伝えている。6月以降、貴州、陜西、浙江、広東、雲南での公安当局に対する住民暴動が伝えられている。



 中国では報道は統制されており、「自由に報道していい」から「政府発表以外はダメ」まで数段階の規制があるという。住民暴動が報道されるようになったのは規制が緩められたからだろうが、それはなぜか。北京五輪に合わせて「開かれた中国」を演出するため……ではあるまい。地方の公安当局の行状が目に余るものとなっているため、中央が引き締めを図らざるを得なくなったためではないか。



 情報が制限されているので実態はベールに隠されているが、漏れ聞くところでは地方の公安と地元の暴力組織の癒着もあるという。地方で権力者と資産家と暴力組織が結びついて思うままに振る舞うと、住民は無力だ。別の言い方をすると、中国共産党の1党独裁が中国各地で“手足から”腐り始めているのかもしれない。



 独裁政治には問題が多い。自由選挙により議会が形成され、中国が統一を維持しながら民主的な開かれた国に変わるというのが理想的なシナリオかも知れないが、歴史を見ると楽観はできない。中国では強権的な中央集権政府がある時のみ全土の統一がなされるが、そうでなければ各地がバラバラになる。



 それに加えて、共産党独裁が崩壊した国では分裂が起きる。ソ連が解体した時には、ウラル山脈以西で各地が次々に分離独立したが、地域によっては戦争が続き、中には武装勢力が闊歩する無法地帯になっているところがあるという。ユーゴスラビアはバラバラに解体したが、最近になって欧米がむりやり独立させたコソボは産業基盤が弱く、援助頼み。実はコソボはギャング集団の天下といわれ、欧州への麻薬の流通拠点になっているという。



 3月に起きたチベット騒乱の世界的な意味は、チベット漢民族の中国とは異質な地域だという認識を世界が持ったことだ。つまり、中国共産党の独裁が終わった時に、チベットが独立に動くなら世界が支持する可能性が出て来た。その時にはウイグル、モンゴルなどでも分離独立の動きが出て来るかもしれず、そうなると満州族なども漢民族と無理に一緒にいる必要もなくなる。



 中国が分裂しても、各地で人々が自由で民主的な生活を送ることができるようになるなら、それは慶賀すべきなのかもしれないが、気がかりは、腐敗した地方政府がそのまま独立したような国が出現すること。暴力組織の拠点となるような場所が東アジアに出現することは好ましいことではない。



 メコン川の海運が整備され、陸路も整備され、中国とインドシナの交易が活発になっているが、それにつれて麻薬の流通も活発になり、大量に中国に流れ込んでいるともいわれる。その麻薬の流通を担っているのは暴力組織だろう。中国が分裂すれば、暴力組織は消えてなくなり、麻薬の流通もなくなる……はずはない。



 だから、中国が強権で人々を暴力組織もろとも弾圧する国であり続けてくれたほうが日本には好都合……とは言えないが、東アジアに麻薬の流通拠点が誕生するのも歓迎できまい。中国の今後は中国の人々が決めることだが、体制崩壊した場合の影響の多様さ・大きさは計り知れない。