望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

情報発信から見えるもの

 社会に提供される情報が厳しく管理されている国がある。国内のテレビや新聞では体制を翼賛する情報が主に提供され、SNSなどインターネットにおける情報発信は厳しく監視・制約されて、体制に従順な声があふれる。政府批判はもちろん、政策や官僚の対応などを検証しようとする試みも排除されたりする。

 人々の批判を封じ込める国で政府は、独裁的な権力を確立している。その独裁的な権力は堅牢に見えるが、人心が離反すると政治的な権力はたちまち揺らぐので、独裁的な権力は常に人々を従わせつつ、監視したり懐柔して人々からの支持を得つつ、人心の離反を防ぎ続けなくてはならない。独裁的な権力を維持するためには相応の努力を要する。

 一方で、社会に提供される情報が基本的に自由で、政府に対する批判はもちろん、あらゆる出来事に対して大量の賛否の情報が渦巻く国がある。情報の提供が自由であるから、新聞やテレビなどマスメディアに加え個人もSNSで熱心に情報発信する。さらに、大量の情報には虚実が入り混じる。

 虚実が入り混じるのは、第一に個人が発信する情報には事実誤認や錯誤が含まれていたり、主観に適合する真偽定かならぬ情報が選ばれるからだ。第二に外国勢力による情報提供があり、国内の分裂や混乱を誘ったり、世論を当該国に有利になるように仕向けることがあり、第三に陰謀論などを主張するために捏造された事実の情報が流布されるからだ。

 情報は大きく、①事実を伝える、②意見や解釈を伝える、③創作物ーに分かれる。虚偽を伝える情報は創作された情報であって事実を伝えるものではないが、事実を伝えていると装う。そうした情報を受け入れてもらうために断片的に事実を交え、事実と創作された情報を混ぜ合わせ特定の見方に導く。これらは受け手を誘導することが狙いだが、事実ではないことを事実であると伝える情報もある。混乱させることが狙いだ。

 SNSが存在する現代の戦時において、情報戦の重要性は格段に高まった。現在のロシアのウクライナ侵攻においても、ウクライナ側とロシア側双方が大量の情報を世界に向けて日々発信する。双方の情報に事実も虚偽も含まれているだろうから、第三者が虚実を見分けるのは簡単ではないが、侵略者=ロシアの情報が厳しく検証されるのは当然だろう。

 ロシア軍が撤退した地域で多数の民間人の遺体が放置されていたと報じられ、ウクライナはロシア軍が虐殺を行ったと非難し、ロシアはロシア軍の撤退後にウクライナ側が配置したと反論する。実態は定かではないが、虐殺の汚名を着せられたとロシアが判断したなら、もっと激しく反論したり、ロシア軍の撤退時の映像などを示して否定するだろう。

 民間人の虐殺が行われたという場所はウクライナ国内である。ロシア軍がウクライナの国内で軍事行動を行っていたこと自体が否定さるべき行動であり、他国へ侵略した軍にモラルの低下が見られるのは歴史において珍しいことではない。