かつて行われていた日本政府主催のタウンミーティング(TM)では、会場からの質問の多くがヤラセだった。国会の論戦で、はぐらかしや論点すり替えなど、まともに答えないことが多い政府が、TMでだけ態度を変えて真摯な議論が行われるはずもなかった。
当時の小泉内閣が政府主導で2001年6月からTMを開催するようになった。国会が機能していないから、主権者が要求して「我らの声を聞け」とTMが開かれるようになったわけではない。もともとTMはアメリカの自治体で住民参加型の政策決定会議として行われていた。直接民主主義の1方法である。それを、日本では政府主催で導入したのは、議員を選挙で選出して国会を形成して国政を任すという間接民主主義を軽んじるものであろう。
といって、直接民主主義を小泉政権が指向していたわけではないことはヤラセの実態によって明らかだし、TM参加者によると「いくら手を挙げていても司会者から指名されない人も多かった」ともされ、自由な議論の場ではTMはなかった。TMは、人々の声を閣僚ら政府サイドが直接聞くというポーズを見せるためのアリバイづくりの役目だったのかもしれない。
TMは広告代理店が請け負い、その契約で冒頭発言の依頼者に謝礼として5000円を支払うことになっていた。大臣がいる会場で、会場からの質問を募ったらシーンとするばかり…となることを恐れて、謝礼付きの冒頭質問が容認された。これを政府は「問題ない」とするが、たとえ問題がないとしても、相当にみっともない「恥ずべき行為」であった。
人々の声を直接聞くと謳う集会で、政府があらかじめ特定の人物に質問を依頼し、謝礼まで払う。中には、政府の人間が質問内容を指示し、当日の会場で、あらかじめ決められた人物を選んで発言させ、「予定外」の質問者を制限する。これを民主主義の実践ととらえる人々は海外にどれだけいるのだろうか。
政府主催で大金をばらまいてTMを行うくらいなら、テーマごとに住民投票・国民投票を行うほうが「民意」は明確になる。国会の機能低下を補う民主主義的方法は、それしかない。