望潮亭通信

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「08憲章」に見る民主中国

 中国が共産党による独裁統治をやめ、人権や民主主義、法の支配を尊重する国になることは、中国に住む人々にとっての幸いであるだろうが、周辺国に住む人々にとっても、新しい民主的な中国と判断基準、行動基準などを共有し、相互理解と相互尊重に基づく国際関係を構築することで、共存の可能性が高まるだろうから歓迎すべきことだ。

 独裁統治が続く中国に住む人々の中にも、民主的な中国への移行を求める人々はいる。その代表的な一人が劉暁波氏だ。2008年に303人の連名で「08憲章」が発表されたが、劉氏も提唱者の一人だった。劉氏が亡くなり、世界各地での追悼や中国政府に対する抗議の動きは報じられたものの、08憲章にも関心が集まった……という状況ではなかった。
 
 08憲章は何を主張しているのか。ネット上にある各種の日本語訳から浮かび上がるのは、近代化(西洋化)を自力で達成できなかった中国は、近代思想の一つである共産主義を導入し、第二次大戦による戦乱もあって共産党主導による武力革命には成功したが、共産主義を標榜する統治では失敗し続け、資本主義の導入によって経済発展に転じ、豊かになったということだ。

 しかし、国づくりに失敗した共産主義を放棄することは、共産党の1党独裁の終焉でもあるから、独裁統治を続けることを正当化するためには共産主義の旗を降ろすことができす、民主主義や法の支配などを求める人々を抑圧し続けなければならない。これが現在の中国のシステムであるとし、08憲章は、中国が近代の普遍的な価値を認め、民主的な政体に移行することを提唱している。

 08憲章は基本理念として、自由、人権、平等、共和、民主、憲政を示し、それらに基づいた国づくりを提言する。自由は普遍的価値の核心であるとし、中国の災難は全て政府当局が人権を無視してきたことと密接に関係すると指摘、民主を主権在民民選政府と規定し、「自由を実践し、民主を自ら行い、法治を尊奉することこそ中国の根本的な活路」とする。

 それらの理念を実現するための具体的な主張として示したのは、憲法改正、権力の分散、民主的な立法、司法の独立、公共機関の公用(共産党への隷属の否定)、人権の保障、公職選挙、都市部と農村部の平等、結社の自由、集会の自由、言論の自由、宗教の自由、公民教育(政治教育の廃止)、財産の保護、財政・税制改革、社会保障環境保護、連邦共和(中華連邦共和国の設立)、正義の転換(全ての政治犯と良心犯を釈放)である。

 08憲章は最後に、中国は「依然として権威主義政治の状況」にあり、それによって「絶えることのない人権侵害と社会的危機が作り出され」ているとし、「同様の危機感を持ち、責任感を感じ、使命感を感じている全ての中国国民」が「中国社会の偉大な変革を起こすことに参加することを希望する」と呼びかける。

 08憲章が示す民主的な中国が実現したなら、劉暁波氏のような最期は許されなくなるだろう。人権を軽んずる独裁国家の存在は、その国内に住む人々を抑圧するだけではなく、そうした国家を容認する他国の政治システムの正当性をも傷つける。その意味でも08憲章は、民主主義や法の支配などを尊重する世界の人々が賛同できる面を持っている。