望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

中国の法治

 法治ではなく人治だとされてきた中国で、政府は法による統治の形式を急速に整えている。といっても共産党が独裁する中国で、法は政府が決めて形式的な議会を経て成立するが、他に規定など政府が決めて施行する類の「命令」も多く、法治の実態は形式だけだ。そんな中国で、政府が人々を統制するため法を活用している。

 例えば、しつけなど家庭内の教育を充実させる法律を中国政府は提出、年内に成立するという。高齢者や幼い子供を大事にし、勤勉節約に努めるなどの道徳心と、規則正しい生活などの生活習慣とともに、中国共産党への愛党精神を家庭内教育で教え、党や国、社会主義を愛し、国家統一と民族団結を守る概念を教え込むと報じられた。

 法が成立した後に政府は家庭内教育の指針を策定し、小中学校や幼稚園、町内会組織が保護者に、どのように子に教えるべきかなどを助言するのだという。草案では、素行が悪い子の保護者に警察や裁判所が、家庭教育に関する指導を受けるよう強制できるとしていたが、それは見送られた。とはいえ、法に縛られない中国政府とその支持者たちは、人々の家庭での子の教育に干渉を強めるだろう。

 食品の浪費を禁じる法律も中国政府は制定した。飲食店は大量に食べ残した客からゴミ処理の費用を徴収できるようになり、大食いの番組の放送や動画の配信を禁じた。賞味期限切れが近い商品の管理を徹底するようスーパーに求め、食堂を持つ政府機関や学校などと出前サービスを行うネット企業には食品の無駄が生じないような対策を要求したという。

 中国では宴会などで主催者が、客が食べ切れないほど多めに料理を注文し、招かれた客は食べ残すのが礼儀だとされた(客が残さず食べると、料理の数が少なかったとして主催者のもてなし不足とみなされる)。その習慣にも中国政府は法で規制をかけた。中国政府の狙いは、大量に食料を輸入している米国との緊張が高まっていることから、食糧安全保障を意識したと報じられた。

 さらに中国政府は、小中学生向け学習塾の新規開業の認可をせず、既存の学習塾は非営利団体として登記させ、塾の費用は政府が基準額を示す規制を実施した。高騰する教育費負担を抑えて少子化対策につなげる狙いだと報じられているが、学習塾の新規上場を禁じるなど民間の教育産業には大打撃だ。また、宿題量の目安を小学3~6年生は1時間、中学生は1時間半を超えないようにするとした。

 中国政府が人々の生活の隅々まで統制しようとしているのは、宗教的な規範も道徳的な規範も弱い社会で法治を人々の統制に活用し始めたと見える。政府の過剰なまでの統制に対して人々は、従うか黙っているしかない。民主主義の国では「余計なお世話だ」と人々は反発するだろうが、独裁権力が圧倒的な中国で人々は、異議を申し立てることは身の危険を伴うので、従うか黙るしかない。