望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

サンゴ密漁と法治


 小笠原諸島や伊豆諸島などの周辺に2014年、多数の中国漁船がはるばるやって来て、サンゴを密漁していた。対応する海上保安庁は多勢に無勢で、領海に入らないように呼びかける等の対応で精一杯。片っ端から追い散らすことができればスッキリするのだが、密漁の現場や密漁の証拠を押さえなければ法による強制力は行使できない。



 これは法治国家の弱点だろう。法を無視する外国人にも、法治国家では法に則って対応せざるを得ない。堂々と日本の法を無視する外国人を“野放し”にしておくことに、ある種の無力感さえ感じるが、外国人だけを日本の法の適用外にすることは、法治の体制にヒビを入れることになる。



 ところで、中国といえば「法治国家ではない」ことで名高い。立派ともいわれる憲法や各種の法を整備しているのだが、その運用は人(官僚など)次第。正確にいえば、最高権力である中国共産党は法に超越する存在で、それ以外は法の縛りを受ける。権力にとって都合のいい場合にだけ法を適用する体制であり、社会だ。そのため司法は、法の番人ではなく、権力の番人に成り下がる。



 そうした中国で生きる人々が、法を尊重する意識を持つはずがない。中国の憲法は財産の所有権を保障しているが、各地で土地の強制接収などは珍しくなく、それに抗議する人々のデモや暴動が毎年多く起きているという。憲法が権力を縛るものではなく、人々を縛るものである社会で生きる人々が、国外に出た時に、他国の法律や国際法などを尊重しようとするだろうか。犯罪者ではなくフツーの人々であっても、遵法意識などは希薄だろう。



 自分らの権利や利益などが法により保護されず、司法に公正な裁きを期待できず、権利や利益を主張するためには力づくで行動するしかないという社会に生きる人々。中国が法治を実現できないのは、中国共産党の長い独裁体制が主因だろうが、人々に法治意識が欠如し、法に何も期待していないことも大きいかもしれない。



 北京で開催された2014年の中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議(四中全会)で党は「法の支配」の方針を打ち出し、憲法の順守を強調して、「中国的な特色を持つ社会主義的な法による支配」という新たなスローガンを打ち出したという。「中国的な特色を持つ」とあるから、中国共産党が法に超越するという実態は何ら変わらないだろうが、国内外で中国共産党以外の全てに対して、法の支配を要求するのだろう。



 自分らは法に縛られないが、相手に対しては法の遵守を要求するというのは便利な手法だ。中国共産党にとって法は、国内では支配の手段であり、国際法も外交の手段でしかない。中国で法治が欠如していることは、実は国際社会の大迷惑でもあることを、日本周辺でのサンゴ密漁事件は示している。