望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

独裁は腐敗する

 世界の腐敗度の、ある国別ランキングによると中国は174カ国中の100位だ(2014年。日本は15位)。中国は前13年に80位だったので、大きく順位を落としたのだが、これは腐敗が深刻になったというより、腐敗の凄まじい実態が徐々に暴かれ、国外からも見えるようになったことの影響かもしれない。



 中国では習近平主席が主導する汚職撲滅キャンペーンが全国で展開され、広範で深刻な腐敗の実態が衆目に曝された。2013年だけで18万人以上の共産党員が調査を受け、5万人以上の公務員が立件されたが、閣僚級が数人、局長級が200人以上含まれていたというから、さすが13億人以上を抱える大国だ。腐敗が蔓延している大国だから、いつまででも腐敗摘発を続けることができそうだ。



 腐敗の規模も大きい。中央官庁の国家発展改革委員会の副局長の自宅から2億元(約36億円)の現金が押収されたことが話題となったが、腐敗で得た現金をそのまま溜め込むのは、腐敗の“素人”がやること。金製品などを買ったり、不動産を買ったりするのが一般的(?)。例えば、武志忠という内モンゴル自治区政府の高官は中国に33軒、カナダに1軒の住宅を所有していたという。



 もちろん地位が上がれば上がるほど、集まる金が増えるので腐敗の規模も大きくなる。かつて中国共産党の中央政治局常務委員9人の1人で公安トップだった周永康氏は、党籍を剥奪され逮捕されたが、伝えられるところでは、一族の29軒の住宅から押収された金・銀・金貨類が43キロほど、現金類がスイスフランなどで670億円以上、銀行預金などが5680億円、証券が8640億円などで、ほかに多数の車両や絵画があり、総額1千億元(約1兆7千億円)に達するというから、さすが大国のトップ級官僚だ。



 中国の腐敗の全体像は想像に絶する規模だろう。例えば、▽中国の官僚の国外銀行での不正による預貯金総額は4兆8000億ドル以上▽党や政府の幹部、国有企業の管理職らで海外に逃亡した総数は1万6000人以上、持ち逃げ総額は8000億元(15兆円超)▽軍隊内ではポスト売買、戦闘機や戦車など兵器や軍需物資の密売などが蔓延、など漏れ伝わる情報からも腐敗の深刻さが分かる。



 中国は共産党の1党独裁体制で、中央でも地方でも党員の政府幹部が大きな裁量権を握る。法も共産党に従属するのが実態で、腐敗を牽制する仕組みが弱い社会だ。革命のための軍事組織としては独裁体制が必要だったろうが、平時における独裁体制は、個人独裁でも1党独裁でも腐敗がはびこるのは世界の歴史が示すところだ。



 中国には、中央や地方の権力者と、それにつながる人々が富を占有したという長い歴史もある。自力で社会の近代化ができなかった中国は20世紀に戦乱や革命の混乱が長く続き、人々は生き延びるのに必死だったのだろうから、その影響で法治などの規範意識が希薄なのかもしれない。しかし、中国が豊かになるにつれて、「先に豊かになれる者から豊かに」なると官僚が富を略奪している現実は、中国の人々にとっては救いがない悲劇だ。