望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

中国が倒れる時

 生産力の過剰、債務の膨張など様々な問題が指摘されて中国経済の崩壊論は以前から取り沙汰されているが、成長率は低下しているものの中国経済は成長を続けている。公表されているデータが実態をどれだけ正確に反映しているのかは定かではないが、崩壊といった状況には至っていないようだ。

 中国の18年のGDPは前年比6.6%増の90兆309億元(約1440兆円)で日本の約2.6倍、米国に次ぐ世界2位とされる。これだけ規模が大きくなると、構造が複雑になるとともに強固になり、単一の要因で簡単に倒れることは考えにくい。現在の中国共産党統治は経済発展を支えにしているとされ、中国経済が崩壊しない限り中国共産党の独裁統治は続くかもしれない。

 ソ連が崩壊したのは1991年。強力な軍隊はあったが、経済は非効率で低迷が続き、政治改革は進まず、ゴルバチョフが各種の自由化を促すと、押さえ込まれていた共産党や政府に対する批判が表面化し、ソ連邦からの分離独立の動きが各地で始まり、共産主義者による8月クーデターが失敗に終わり、12月にゴルバチョフソ連解体を発表した。

 大混乱の中で誕生した新生ロシアでは、犯罪や汚職が増え、旧ソ連国営企業や土地などの国有財産の払い下げを受けた新興財閥が勢力を拡大した。私有財産であった土地などを国有化した共産主義体制が崩壊した時、土地などは元の持ち主には返却されず(元の持ち主のデータなど失われていただろう)、莫大な国有財産は一部の有力集団の草刈り場になった。

 中国経済の成長が続く間は共産党による独裁統治も続く可能性はあるが、永遠に成長を続ける経済はないだろう。また、チュニジアで1人の男の焼身自殺が政府に対する抗議活動を拡大させ政権崩壊につながったように、政治に対する人々の押さえ込まれていた要求が噴き出したなら政権は揺らぐ。易姓革命を強権で防ぐことは簡単ではない。

 いつか、中国の共産党独裁体制が崩壊した時には何が起きるのだろうか。崩壊時のソ連と現在の中国には経済規模で大差があるので、政治的混乱による経済的な困窮の現れ方は異なり、民間経済の活発化が中国では早期に期待できるかもしれない。米欧など世界経済との結びつきも中国のほうが遥かに強いので米欧などからの支援も期待できよう。

 しかし、共産主義体制の崩壊に伴う国有財産の奪い合いはソ連崩壊時と同様に中国でも起きる可能性が高い。中国には強大な国有企業が多数あり、地方で権力を握っている人々が地場資本と一体となって新興財閥化するだろうし、民営の大企業も育っている。

 中央の共産党独裁が崩壊すれば「遠心力」が強まろう。強権により厳しく押さえ込まれていた諸民族の自立・独立要求が各地で高まろうし、地方の権力が軍と結びついて軍閥化する可能性もある。共産党に代わって権力を担う集団が現れるまで国家の解体作用は止まないだろう。