望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

共同富裕

 中国共産党が以前から掲げる共同富裕という理念が、貧富などの格差をなくし、社会を構成する皆が等しく豊かになるという共産主義の理想を実現するものであれば中国にふさわしい。問題は、現在の中国は資本主義的な搾取が定着して貧富の格差が甚だしくなり、共産党の幹部が特権階級化していて、現代の中国で共同富裕を本当に実現するなら革命的な強権発動が必要だが、それは共産党の独裁支配を揺るがす。

 経済成長を続ける中国では富裕層が肥大した。富裕層のトップ1%が富の30%以上を得ているという。富裕層の誕生は先富論の実現として容認されたが、巨大化する民間企業が増え、億万長者が並ぶ資本家階級が形成されたとあっては中国共産党は坐視できなかったとも見える。

 「社会主義の本質的な要求だ」と習近平氏が持ち出した共同富裕だが、共産党の幹部や国有企業も対象になる増税による再配分は難しいので、民間企業や富裕層に寄付を求めることを打ち出した。共産党には逆らえないと、アリババは共同富裕の実現に向け2025年までに1000億人民元(約1兆7000億円)を拠出するとし、テンセントは500億元(約8500億円)を貧困層支援などに充てる計画を公表するなど民間企業は次々に政府の方針に従う姿勢を示している。

 富裕層に警戒感が出ているので共産党幹部は会見で共同富裕は「富裕層を犠牲にして貧困層を救うことではない」と説明したそうだが、富裕層の不安を解消できるか定かではない。中国共産党は中国国内では何でも実行できるのだから、必要となれば富裕層の富を国庫に吸収することもいとわないだろう。格差に対する人々の不満が高まれば(=不満を抑え込むことができなくなれば)共産党は豹変する。

 富裕層に富が偏り民間企業が巨額の内部留保を溜め込むという社会は中国だけではない。欧米や日本なども同様の傾向にあるといわれ、共同富裕の理想は各国にも当てはまりそうだ。中国は膨大な貧困層を抱える一方で億万長者など富裕層を肥大させたが、日本など各国は以前、中産階級を厚くすることで擬似的な共同富裕に近づけた。

 だが、その中産階級は非正規雇用の増加などの施策で解体に追い込まれている国が多いようだ。厚い中産階級は消費需要を活発化させるが、中産階級が解体されると可処分所得の総量も減るだろうから総需要は減少する。パンデミック前から日本はデフレが続くにも関わらず総需要が抑制気味なのは、中産階級の解体と下層移行の影響だろう。

 ごく少数の富裕層と大多数の下層で暮らす人々がいる社会が世界で増えると、共同富裕は各国の人々の理想ともなろう。だが理想は実現しないものだ。中産階級を厚くすることは国内の需要を厚くすることであり、社会の安定感をも高めることを各国政府は承知しているだろう。だが、強欲な富裕層の政治的な影響力に各国政府は抵抗できない気配だ。中国も同じに見える。