望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

中華民族って?

 中国の西安市にある西北大学で2003年に日本人留学生らがふざけて裸踊りをし、中国人学生らが大規模な抗議デモを行った。そのデモには、中国共産党が打ち出した「中華民族の振興」のプラカードもあったという。

 階級意識に基づく共産主義にとって民族主義は否定すべき対象であるはずなのに、中国共産党がなぜ民族主義を持ち出したか。なぜ民族主義を持ち出さざるを得なくなったか。

 中国共産党は実質的に共産主義を放棄し、市場経済を導入、資本家の入党も認めた。「労働者階級の独裁」を止めたからには共産党の独裁も止めるべきだが、独裁が共産党にとって既得権益化していたため、権力を手放したくない。そのためには、共産党の独裁を正当化する新たな理由が必要になる。そこで持ち出されたのが民族主義中華民族の“正統王朝”として中国共産党を位置づけた。

 しかし、民族主義とはクソであるだけにとどまらず、中華という民族意識が暴走し始めると中国共産党の手にも負えまい。一方、中華民族という民族主義色が強まると、国内的に他民族の反発は強くなる。東トルキスタンチベット内モンゴルなど火種は消えていない。

 そもそも、中華民族って何だ? 漢民族に限っても地域によって大きく言語が異なり、風俗、習慣などもまちまちな人々を同一民族とすることには無理がある。強いて言うなら、言語は北京語で、無宗教、拝金主義、西欧的近代を指向する漢民族中華民族として中国共産党は形成しようとしているのかも知れない。現代中国の国家意識を共有することを大きな手がかりとして、「現代中国に属すると思っている人々の集団」を中華民族の定義にしようとしているのかもしれない。

 中国共産党民族主義を持ち出さざるを得なくなったのは、おそらく中国共産党の終わりの始まりであろう。「理想」を掲げて政治活動をしていたつもりが、「現実」に負け、現実追随するしかなくなった。現実追随をどう理論化したところで、そんな政治活動は、袋小路の中を進むだけでしかない。未来はない。