望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

情報を隠して危機管理?

 2015年に韓国で中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスの感染拡大が続いた。感染の確認が遅れ、感染者が隔離されず、病院内で2次感染が起き、さらに3次感染が広がるなど、韓国では危機管理体制に問題があることを露呈した。北朝鮮と対峙している分断国家であるから、危機管理には敏感になりそうなものだが、実態は違うらしい。

 報道によると、バーレーンから帰国した最初の感染者が風邪の症状で病院を受診したのが5月12日。症状が悪化したので別の病院に入院したのが15日。さらに17日には別の病院で受診し、翌18日に別の病院に入院し、ここで初めて医師がMERSの感染を疑い、国の疾病管理本部が検査して20日にMERSに感染していたことが確認された。

 15日に入院した病院で、同じ病室にいた患者と付き添いの家族、見舞客36人が感染したそうだが、MERSであることの確認が遅れたため、2次感染者から感染が拡大した。最初に感染した患者は、MERS感染が確認されるまでに4つの病院を次々に訪れていたのも、感染を拡大させただろう。さらに隔離対象人が国内外を勝手に動き回るなど、人々の防疫意識の面での問題も露呈した。

 MERS感染が確認された後に韓国政府は、不安を煽るとして情報公開に消極的だった。中国政府が長江フェリー沈没事故で取材や報道を規制し、指導者らの「的確な指示」や救助担当者らの懸命さだけを美談として伝えさせて、政権批判を封じ込めようとしていることに影響を受けたのか?と皮肉りたくなる光景だった。

 だが、情報統制が常態化している中国と異なり、成熟してはいないが民主主義国である韓国では、情報は隠しおおせるものではない。自分らは安全なのか、どういう経路で感染が広がったのか、感染者はどう動いたのか、感染者と誰が接触したのか等……情報を隠すことが逆に人々の不安を煽ることとなり、情報公開を求める圧力が韓国政府にかかった。

 危機の存在が明らかな中で、的確な情報が発信されないことが、人々の不安を煽るとともに苛立ちをも強めることは、日本人の多くが福島第一原発の水素爆発後に経験したことだ。あの場合は、情報を隠したというより、政府が混乱していたのであろうが、今回の韓国政府の対応は、情報を統制しようとして不安を煽ってしまったという、感染症対応の失敗例の典型だろう。

 そこには、ネット社会である韓国ではデマが広がりやすいということが影響しているのかもしれない。だが、韓国政府に人々に対する信頼があれば、隠すことより、的確な情報を適時発信するということを選択したはず。一方で、デマに動かされる社会とは、人々の情報リテラシーが低い社会でもある。デマに動かされる人々が政府を信頼せず、政府も人々を信頼しないなら荒んだ社会だ。