望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

プーチン氏の戦争責任

 責任とは、人が自由意思による行為とその行為の結果に対して負うものである。新明解国語辞典は責任を「①自分の分担として、しなければならない任務(負担)、②不結果・失敗に基づく損失や制裁(を自分で引き受けること)」とする。また、違法な行為を行った人には法律に基づく制裁が課せられるが、違法とはいえない行為であっても道義上の責任が問われることもある。

 戦争責任は①戦争を開始した責任、②戦争を遂行した責任、③戦時期にとった行動に対する責任、④敗戦した責任ーとされる。第2次世界大戦では終戦後に、ドイツや日本の指導者らに対して①②③の戦争責任が勝者の連合国によって厳しく問われたが、例えば、広島や長崎の原子爆弾投下による大量虐殺についての責任は問われなかったなど、現実には戦争の敗者に対して追及されるのが戦争責任である。

 2022年2月にロシア軍はウクライナ侵攻を開始した。ロシアは戦争ではなく特別軍事作戦と称し、国連憲章で許される集団的自衛権の行使だと弁明したが、独立国であるウクライナに対する侵攻であると世界の大半の人々は受け止めただろう。だがロシアはウクライナの占領と体制転換を達成できず、東部や南部の占領地を維持するための防戦に方針転換せざるを得なくなっているのが現状だ。

 ロシアなりに大義名分を掲げてウクライナに侵攻したものの、目的を達成することができず膠着状態が続いている様子で、さらにロシア軍の損失は相当大きいと西側メディアは報じる。こうなると「名誉ある」撤退や休戦を模索するために外交の出番となるが、そのような動きはロシアからは伝えられない。

 現状での休戦やウクライナからのロシア軍の撤退は、ウクライナ侵攻を命じたプーチン氏のメンツをつぶし、責任問題につながりかねず、権力を一手に握るプーチン氏が決断しない限り外交の出番はないだろう。だが長期の持久戦となれば、ロシアとウクライナ双方ともに武器弾薬と人員の補給が戦況を左右するので、ロシアに国外における長期の持久戦を遂行する能力があるのかが試される。

 ウクライナにロシア軍が侵攻して戦闘が始まり、1年半近くも戦闘は継続しているが、休戦に向けた動きは見られない。ウクライナにおける戦争責任を考えると、プーチン氏には開戦責任と継戦責任がある。さらに、侵攻したロシア軍などによるウクライナ市民に対する残虐行為や子供達の連れ去りなどが西側メディアによって伝えられ、そうした戦争犯罪に対する責任もプーチン氏は問われる。

 とはいえ、プーチン氏が戦争責任を問われるのは、ロシアとウクライナが全面戦争になってロシアが敗北した時か、ロシアで体制転換が起きてプーチン氏が権力の座から追放された時に限られる。ウクライナの東部や南部のロシアによる占領が維持されたままでの休戦が仮に実現したとしても、プーチン氏が権力を握っている限り、その戦争責任が問われることはない(西側はプーチン氏の戦争責任を問題にするだろうが)。