望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

撮り鉄と乗り鉄

 線路敷地内に侵入したり、線路沿いの市有地に侵入したり、特定の場所に群がる等の撮り鉄と称される鉄道写真マニアの迷惑行為が報じられるようになった。テレビや雑誌などで紹介された撮り鉄に影響されて、写真を撮る際のマナーやルールをわきまえない急造の撮り鉄が増えたのだろう。おそらく以前から同様の行為はあったのだろうが、撮り鉄が大幅に増えて目立つようになったか。

 乗り鉄も増えているようで、五能線など人気のローカル線では全国から乗り鉄が集まり、休日などには大混雑だという。只見線も全国からの乗り鉄で大混雑する路線だ。特に2022年10月1日に11年ぶりに全線で運転を再開してからは、マスメディアで大きく報じられたこともあってか、乗ろうとする人が集まって、日中には満席で通路に立っている人も多いと伝えられた。

 只見線は全長135.2kmで、福島県会津若松駅新潟県小出駅を結ぶ単線で非電化の路線だ。例えば、会津若松駅を午前6時8分発の列車は、只見駅に9時7分に着き、9時30分に出発して小出駅には10時41分に着く。会津若松〜只見が約3時間、只見〜小出が1時間11分。只見線区間には接続する路線が西若松駅からの会津鉄道しかなく、席がない乗客は4時間以上も立っていることを余儀なくされる。

 「深く連なる山々と、蛇行する水量が多い川が織りなす絶景を車窓から楽しむには、窓際に座るに限る」と、只見線が日本有数の赤字路線とされ、乗り鉄の姿もほとんど見かけなかったころから只見線に乗りに行っていたという友人。「通路に立っていたのでは車窓からの風景は一部しか見ることができない」と、各地の観光路線で何回も立ったままの乗車を強いられた友人は言う。

 休日の日中でも、1車両に多くても4〜5人しか乗車していなかったころの只見線の記憶を思い出したのか友人は「あのころの只見線は素晴らしかった。4人掛けのボックスを1人で占領して、足を投げ出し、夏には窓を全開して、絶景を堪能できた」。「春夏秋冬、どの季節にも只見線はそれぞれの絶景を見せてくれた」と懐かしむ友人は、乗り鉄が急増して只見線が混むようになってからは乗りに行っていないという。

 乗り鉄が増えて、テレビや雑誌などで紹介された路線に集中した結果として休日などには大混雑となり、古くから鉄道に乗ることを楽しんでいた乗り鉄は乗車を楽しむことができなくなるというパラドクス。鉄道に乗る楽しさを自分で発見したのではなく、情報として乗り鉄趣味を発見して乗り鉄になった人々には、急増した撮り鉄と同様に「ここがいい」との情報が示す場所に群がる。

 只見線の混雑は続いているようで、只見線に乗ることを諦めた友人は「休日でも閑散としたローカル路線はまだまだ多い」と、テレビや雑誌にあまり取り上げられない路線を探して乗り鉄趣味を満たしている。「人気となった場所や路線に集中するのは、経験が短く、情報に操られて、“いいところ”を自分で発見することができない撮り鉄乗り鉄だ」とする友人は最近、「連中と一緒にされたくない」と自分が乗り鉄だとは言わなくなった。