望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

過疎路線と乗り鉄

 商店や飲食店などなら、来店客が減って「店を開いていても売り上げで電気代さえ払えず、赤字続き」となり、周辺の住民も減り続けていて来店客数の回復が見込めない状況となれば、店を閉めるだろう。そうした判断は人々に同情され、地域を見捨てたと批判されることはおそらく少ない。

 だが、JR各社が赤字路線を廃線してバス転換を提案したりすると、強い反発が地域から上がる。乗客が減って、ガラガラの車両を定時運行することは赤字の垂れ流しとなり、鉄道事業会社としては、いつまでも続けることはできない。だが、国鉄だった鉄道の路線の廃線には「地域の過疎化を促進する」などの声が地域から上がる。営利事業ではなく公共サービス(事業)として存続を求められる。

 過疎化で乗客数が減って鉄道事業が成り立たなくなっているのだが、鉄路が維持されれば過疎化に歯止めがかかると判断する根拠は希薄だ。おそらく、乗客数が少ない鉄路が維持されても過疎化は進む。廃線をやめさせるのには沿線住民を増やし、乗客数を増やすしかないのだが、進む過疎化に地方は「無力」だ。沿線住民を増やすには移住者を増やすしかないだろうが、移住者に魅力がある地域づくりは進んでいない。

 JR東日本は路線別の収支を初めて公表、全66路線のうち35路線の66区間が2019年度に営業赤字だったとした。最も赤字額が大きい区間羽越本線の村上〜鶴岡で、年間の運輸収入6億円を稼ぐために営業費用が55億円かかっているという。JR西日本は17路線30区間が赤字だとした(両社が公表したのは輸送密度が2000人未満の区間)。JR北海道は全21区間で営業赤字だったと発表、輸送密度が2000人未満の区間では141億円の営業赤字で、赤字幅は7億500万円拡大し、これは過去最大という。 

 国交省有識者会議は、区間の輸送密度が1000人未満などを見直しの基準にし、バスなどへの転換も含め協議を進めるべきとする提言をまとめた。輸送密度1000人未満の区間はJR5社で61路線100区間になる(JR東海を除く)。ただし、①隣り合う駅間の1時間の乗客数が通勤や通学の利用ピーク時に上下線のいずれかで500人を超える線区、②拠点都市間を行き来する特急や重要な貨物列車が走る線区、③自治体が出資する第三セクターの鉄道ーは対象外とした。

 61路線100区間の内訳は、JR北海道根室線の釧路~根室など8路線の9区間JR東日本五能線能代~深浦、深浦~五所川原只見線会津坂下会津川口会津川口~只見などの29路線の50区間JR西日本大糸線南小谷糸魚川や山陰線の城崎温泉~浜坂、浜坂~鳥取など13路線の25区間JR四国予讃線向井原伊予大洲など3路線の4区間JR九州日豊本線の佐伯~延岡や指宿枕崎線の指宿~枕崎など8路線の11区間

 公表された61路線100区間リストを見て、乗り鉄を自称する東京在住の友人は「絶景の路線がいっぱいじゃないか」とため息をつき、「乗客が少なく、のんびり乗車できるのもローカル路線の魅力で、都市での過密生活から解放された気分になるのが魅力だった」と言う。だがJR各社に過疎路線を支える力がなくなり、それらの廃線の現実味が増し、友人は「このリストの路線を重点的に乗りに行くぞ。すぐには廃線にならないだろうが、いつまで存続しているか不安だ」とし、「わずかでも収支に貢献できれば幸いだ」と付け加えた。