望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

三国人

 こんなコラムを2000年に書いていました。

 石原都知事陸上自衛隊駐屯地の式典で「大震災の時に、凶悪犯罪の多い三国人が騒憂事件を起こすから、自衛隊に治安出動してほしい」と述べたそうで、三国人外国人差別の発言であると批判が集まっている。しかし、関東大震災三国人が事件を起こしたかのような決め付けに批判はなかった。誰が殺されたのか。

 竹中労氏の「大杉栄」(ちくま文庫)によると、黒龍会内田良平が震災後の状況について「警察官が大道を疾駆して、“鮮人の暴行に対してこれを殴殺するも止むを得ぬ”などと声言して廻り」「2日夜陰に入り、“鮮人二千ほど大崎方面より押し寄せ来るべし、得物を以て、これを警戒せよ、斬り捨つるも可なり”と警官、憲兵は自動車、自転車にて街路を疾呼し去る。ために市民は驚愕、結果同夜より自警団は現出したるなり」としている。

 「自衛隊は軍だ」と石原氏は言い切ったそうだが、それは正しい認識だ。歴史を見ると軍隊というものは自衛を口実に動く。敵を設定して、不安を煽り、自らの行動を正当化する。治安出動も同じだ。ただし、現在の自衛隊をして当時の陸軍と重ねあわせるのは無理があろうし、宝石店強盗や蛇頭絡みの事件をして在日外国人(不法入国であれ)の一般的な行動だと見なすのも飛躍のしすぎだ。

 今回の発言で石原氏が関東大震災後の状況について正確とは言い難い片寄った見方をしていることが明らかになったが、もう一つ、石原氏の意識の中に大杉栄がいないということも明らかになった。大杉栄が意識の中にいないとは、個人の自由な精神、その発露としての自由な行動への理解に欠けるということ。