望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

人気投票だよ

 2007年の東京都知事選挙で圧勝で再選を決めた石原氏だが、最初の当選は青島幸男氏の不出馬によるところが大きかった。青島氏が選挙に出ていれば石原氏が勝てたかどうか分からない。自分より大衆受けのする候補者が立候補しないこと、それが石原氏の選挙に絶対必要な条件だった。イメージとして石原氏はタカ派の理念を訴えて当選したように見えるが,国会議員選挙の頃からタレントを動員した選挙を行って来た。石原氏にとっては選挙は人気投票と同じようなものだったかもしれない。


 無党派層に飽きられないようにすることが石原氏の当選の鍵だった。そのため石原氏は自民党に距離を置き,大きな日本政府相手に元気よく健気に闘っているように演出し,無党派層を自分の応援団と位置づけた。しかし、無党派層は石原氏に忠誠を誓ったわけではない。石原氏に飽きたり、石原氏より新鮮で面白そうな候補者がいれば、そっちに流れる。


 例えば,当時の安倍氏が首相を辞めて都知事選に立候補すれば石原氏に勝てるだろうか。安倍氏では石原氏より無党派層を引きつけられそうにないと見えるが,例えば,自分探しに飽きた中田氏が立候補すればどうか。例えば,映画監督に飽きたビートたけしではどうか。例えば,テレビスタジオで政治を論じている有名タレントらではどうか。


 選挙が人気投票になるということは、選挙の時に最も輝いて見える人物が有利だということである。政策や理念はもっともらしいのを用意しておけばいい。無党派層は、そんなものを詳しく読んだりしない。一方で,自分を輝かせるために相手をおとしめることも必要になろう。攻撃性も無党派層には頼もしく見えるように,演出しなければならない。


 やっと自分の人気を確立したかに見えた石原氏だが,人気はうつろう。人気に頼ったものは、人気に裏切られる。2007年の選挙で石原氏が問われたのは知事としての実績である。オリンピックを持ち出さなければならなかったのは、石原都政に語るに足るものがないからかもしれない。あわてて低所得者への減税を持ち出したが,もっと前に実施できたはずだ。前にも似たような例があった。運輸大臣であった時には何も言わなかったのに,都知事になってからディーゼル車の排気ガス規制を主張し,国の無策を批判した。


 ええかっこしいの男だが,会ってみれば実はいい奴だという声もある。そうなのかもしれない。しかし、政治において欠かせない何かを氏は欠いていた。その欠落が無党派層には新鮮で面白く見えたのかもしれない。氏は政治にも知事にも大して未練はないようにも見え、批判されるから反発して立候補するが,当選後は氏のほうから無党派層を見限るように見えた。選挙が終われば、もう人気投票のことは考えずに済む。