望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

鈍感なのは誰か

 こんなコラムを2000年に書いていました。

 森氏が首相に就任した日の夜、11時過ぎから記者会見が始まり、NHKが中継していた。どんな「失言」をするのかと見ていると、手元の分厚い資料をしきりに見て、読んでいるだけのことも多かった。

 印象に残ったことが一つある。それは、派閥均衡の組閣だなどと派閥に関する質問が出た時、森氏は「派閥というのはなくなった。今あるのは政策グループだ」と答えたことだ。政策を勉強する仲間の集まりだとか、政策的に同調する仲間の集まりだとか森氏は強調していた。

 この森氏の発言に記者側から「派閥ではなく政策グループだと言うなら、森派と呼ばれる政策グループの政策面の特徴、独自性は何か」との質問が出ると期待したが、出なかった。

 小渕派、加藤派、亀井・村上派などと「政策グループ」が現に自民党にあり、森氏の説明を信じるなら、各派は政策的に同調できないから分かれているはずだ。とすると、各派(グループ)には政策の違いがあることになる。「政策グループ」論に従うなら、各派の政策の違いを説明できなくてはならない。

 派閥が政策グループなどではないことを政治家も記者も知っているから、森氏の言にも、「また建前を言っている」と聞き流してしまったのだろう。しかし、これは記者側のミスではないか。会見で言っていることに、ほころびが少しでも見えれば、見逃さず突つくべきだろう。別の見方をすると、政治部記者が政策について政治家に質すということをしていないから、会見などで咄嗟に質問を思いつかないのかもしれない。

 派閥が本当に政策グループだとしたら、派閥の長をかついでの総裁選は政策の争いの色が濃くなり、結果次第では党分裂ということも起こり得る。また、政策面での違いが生じたことを理由に議員の派閥移動が珍しくなくなるはずだ。

 森氏の「ウソ」に記者は鈍感だった。