望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

長いまつげの少女

 こんなコラムを2003年に書いていました。

 まつげを長くした少女は、父親のブッシュから「あゆを真似したんだろう」と言われ、「いいえ、オゾン層が破壊されて紫外線が強くなったから、体が適応したのよ」と言い返した。父親のブッシュは、娘が近ごろ素直でなくなったと感じつつ、「紫外線は男女に等しく降り注ぐのだから、おまえの論理でいくと、男もまつげが長くなるはずだ。でも、お父さんのまつげは長くならないぞ」と言うと、娘に「成長ホルモンの違いね」とあっさり片づけられた。

 それでブッシュは、男も紫外線の強い場所に行くとまつげが長くなるのか確かめることにし、地図を広げた。紫外線の強い場所は、乾燥して熱いところだろうと思い込んだブッシュは砂漠をイメージし、湾岸戦争のTV映像を思い出した。「あそこに10万人くらいの米軍兵士を送り込めば、まつげがどう変化するのか、確かなデータが採れる」と自分の直感の鋭さに感心した。

 翌日、国防長官を呼んだブッシュは「湾岸に米軍兵士を10万人派遣することに決めた」と告げた。国防長官は「やっと、お父様のご無念をお晴らしになる気持ちが固まりましたか」と感慨無量の表情になり、「任せて下さい。サダム・フセインを今度こそ逃しません」と強い口調で言った。そう言われてブッシュは、まつげのことは言い出せず、しかし、データは欲しいので「我が軍兵士の健康管理には十分注意してくれ。定期的に健康状態を調査してデータを残すように」とさりげなく言った後、「そうだ、調査項目は俺もチェックする」とまつげのデータ収集もできるようにした。

 部屋に戻った国防長官は早速、世論誘導対策を部下に指示した。ポイントは、▽イラクの国連決議無視を強調すること(ただし、アメリカと国連の関係は忘れさせる)、▽9.11以来の米国内のテロ過敏症を煽る、▽サダム・フセインの非道さを強調する、▽“遅れている”中東に民主主義をもたらすアメリカの“崇高な使命”を強調する。

 こうして米軍兵士が湾岸に送り込まれ、やがて戦争が始まったのだが、米軍兵士が湾岸に送られることになった本当の理由をブッシュはもう誰にも言うことはできなかった。