望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

究極の精密誘導ミサイル

 戦争は、最初は個と個の戦いであっただろうものが、組織化されるにつれ、線と線の戦いになり、やがて面と面の戦いへと発展し、次には3次元化して空(体)と空(体)の戦いになるーーというのが石原莞爾の見方であった。それは第2次世界大戦までの戦法発展論とも言うべきものである。

 その後、ベトナム戦争では空の戦いを行った米軍に対し、ベトナムの人々は地下トンネルやジャングルを活用し、「相手から見えない」戦法で勝った。米軍はこの敗戦に学び、「相手から見えない」軍隊へと変化した。具体的には湾岸戦争では、数十キロ離れたところから精密誘導ミサイルを打ち込み、夜間にステルス戦闘機などで空爆し、米陸軍兵士も暗視装置を使って夜間に攻撃を仕掛けた。戦場における戦闘空間を更に距離的に拡大し、また、戦闘時間の拡大へと進んだのであるが、2003年のイラク侵略では、従軍記者を多数同行したこともあってか、戦法的な新しさはうかがえない。スピーディーな軍展開を新しさだとする向きもあるが、イラク軍が組織的な抵抗を行っていれば補給線は断たれただろう。

 ただ、侵攻した米軍の各部隊が、ある程度は独自の判断で動いていたらしいのは新しい戦法といえる。いまや各部隊は情報ネットワークで結ばれ、各部隊が独自判断で動く余地が米軍では増えているようだ。双頭の蛇ならぬ多頭の蛇といったところだが、無能な司令官の及ぼす影響が少なくなったのは戦法発展論からは一大変化だろうな。

 ところで、米軍の精密誘導ミサイルはますます発達し、湾岸戦争の頃よりも格段に命中精度が上がったという。だから、イラク侵略でバクダットのアルジャジーラ支局に落ちたのも、ミスだとすれば目標位置の設定入力ミスということになるらしいが、入力ミスでアルジャジーラ支局に命中するというのもおかしな話で、「狙った」と見るべきだろう。

 米軍の兵器はどんどん発展し、そのうち人工知能を備えたミサイルも開発するだろうから、相手の軍事関連施設と民間施設を正確に見分けるミサイルも米軍は開発するかも知れないが、発射されたミサイルが目標が違うと判断し自爆する……。ありえないな。

 20xx年、米軍は究極の精密誘導ミサイルを開発した。それは独裁者など、戦争を始めようとする人間をピンポイントで狙うという自己判断能力を備えたミサイルだった。このミサイルの開発の決め手になったのは、個別の人間の脳波を高空から探知できる技術が開発されたことだ。どんなところに隠れても、戦争を始めようとする人間の脳波をキャッチし、ミサイルはその脳波めがけて突き進む。しかし、実戦配備は見送られた。その時にも米国大統領は好戦的人物だったから、発射されたミサイルがどう判断するか予測できなかったからだ……。