望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

20年と15年

 米国は2001年10月にアフガニスタンに派兵し、タリバン政権を倒して民政政府を構築させたものの、タリバンを壊滅させることができず、勢力を盛り返したタリバンに追われる形で2021年8月末に駐留米軍アフガニスタンを去り、20年に及ぶ「米国史上最長の戦争」は終わった。勝利したとの感覚はおそらく米国人にはないだろう。

 米国はアルカイダを駆逐し、オサマ・ビン・ラーディンを殺すことで同時多発テロに対する報復を成し遂げた。だが、弱体の民政政府を支えるために米国は駐留を続けたものの、タリバンアフガニスタン支配を復活させ、米国流の民主主義の残滓を一掃するだろう。この20年間で米国は2461人の米兵や民間人が死亡し、2万人が負傷したという。それより遥かに多数のアフガニスタン人が死傷しただろうが、実数は不明だ。

 この20年間に米国は2003年にイラク戦争を始め(2011年に米軍はイラクから撤退したが2014年に再駐留)、2007年にソマリア内戦に介入、2011年にリビアに介入した連合軍に参加、2014年にシリアに介入するなど中東やアフリカで戦線を拡大した。だが、それらの戦争で米軍の勝利といえるのはイラク戦争だけだろう。

 20年間の戦争は長いが、15年間の戦争を続けたのが日本だ。1931年に柳条湖事件から満州事変を始め、1937年には盧溝橋事件を引き金に日本と中国との全面戦争である日中戦争に拡大、さらに1941年に真珠湾攻撃から太平洋戦争を始め、1945年に日本は無条件降伏した。中国大陸に侵攻して戦争を続けながら日本は米国などとの戦線を太平洋や東南アジアで拡大、大量の戦死者や餓死者を出して日本はボロ負けした。

 20年間の戦争と15年間の戦争の類似点は、第一に複数の戦争が組み合わせて行われた(20年戦争では個別の戦争が続いたが、15年戦争では最初の戦争が拡大した)。第二に戦争の達成目的が明確でなく撤退の判断が困難だった(達成目的が明確でないから、失敗と判断することに躊躇し、撤収する機会を逃す。国家の決定が失敗だったと認めることが難しい体制であるから、勝てない戦争が長引く)。

 相違点は①戦場(日本は戦場になったが米国は戦場にならなかった)、②兵站(戦線が拡大して日本は補給に支障をきたしたが、米国は補給を行い続けた)、③敵(15年戦争は国家間の戦いだったが、20年戦争は武装組織と国家の戦いが主)、④死者数、⑤核兵器の使用、⑥戦闘の規模(15年戦争では各地で戦闘が続いたが、20年戦争のほとんどで駐留米軍の任務は治安維持)。

 米国に軍事的・経済的に戦争を継続できる余力があり、米軍に比べて弱体な相手に対する戦闘だから20年も続けることができたが、最後には追い出される形でアフガニスタンを去らねばならなかった。15年戦争では米国は日本と4年間戦い、最後には核兵器を使って日本を降伏させた。米国は15年戦争では圧倒的な勝利者を演じ、20年戦争では武力だけでは民心を得ることができないと証明した。さらに土地によっては、核兵器を含む正規軍の武力より多数のゲリラが持つ銃のほうが優勢であることも証明した。