望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

専守防衛の手本?

 米トランプ大統領は日本に駐留米軍の経費の全額負担を要求すると主張している。もし日本が駐留米軍の経費を全額負担するなら、駐留米軍は日本防衛のための傭兵ということになる。それなら駐留米軍の指揮権は日本が持つのが当然だが、そんな用意は米国にも米軍にもないだろう。


 思いやり予算で日本は既に駐留米軍の経費をかなり負担している。費用対効果を考えると、米軍を駐留させておくことは日本にとって最善策なのだろうか。冷静な検証は見当たらない。日本に対する「脅威」の評価は恣意的になりがちで、駐留米軍の抑止効果を膨張させることも少なめにすることもできよう。日本に駐留米軍の経費の全額負担をさせるためには「脅威」を煽ることが有効だろうし、怯えは「脅威」を大きく見せる。


 1945年に敗戦した日本を占領した米国主導の連合国は、日本の非武装化を徹底的に進めた。米国は日本が独立を回復すると同時に日米安保条約を締結、日本が軍事的に独り立ちできないようにして、日本の軍事力を米国のコントロール下に縛り付ける体制を続けている。


 米側が考える望ましい日本の軍事力は、時代とともに変化してきた。冷戦期には、日本を反共側に位置させて軽武装で軍事的に自立させつつ駐留米軍の補完戦力とし、冷戦後に米軍が中東各地で戦争を始めてからは、日本周辺から離れた地域での米軍への軍事協力を求め、日本周辺を離れての展開に制約がある日本に対し米国は苛立ちをあらわにすることも珍しくなかった。


 日本の軍事力の在り方に、トランプ氏は基本的には無関心だろう。経済的観点から日本に負担増額を求め、応じなければ撤退もあり得るとする主張からは、駐留米軍の存在は必要だと見ていないことが伝わる。経済的観点からいえば、駐留米軍の補完戦力であるから日本は米軍需産業の大きなマーケットとなっているのだが、駐留米軍が去れば日本はもう、米軍需産業を最優先して扱う必要はなくなる。


 日本の軍事力が米国のコントロール下に置かれ続けていることもあってか、日本人による日本の軍事力に対する検証は活発ではない。日本の軍事力は日本の防衛に必要な範囲にとどめるべきだろうが、現在は、補完戦力として駐留米軍と共同行動を行うことを前提にした装備などになっている。それが日本独力の専守防衛に最適なのか、駐留米軍が撤退する可能性があるならば検討するべきだろう。


 駐留米軍の戦力は、米国の影響力を世界で行使するために必要な能力を備えているが、そうした戦力は日本独力の専守防衛には過大な戦力といえよう。核兵器保有しないとして、どの程度の通常兵力が日本独力の専守防衛に必要なのか。「脅威」に煽られることなく冷静に判断しなければならないが、その種の議論は乏しい。駐留米軍の長すぎる存在の弊害といえよう。


 通常戦力で米韓に大きく見劣りする北朝鮮は、ミサイル開発に注力している。配備数は不明ながら各種の射程のミサイルを備える様子は、ハリネズミを連想させる。これは、日本独力の専守防衛の参考になるかもしれない。空母や最新戦闘機の数を大金を使って増やすよりも、地上移動式の各種の射程のミサイルを日本全国に配備する……これは、海外派兵を考えない日本独力の専守防衛にふさわしそうだ。