望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

米軍駐留の効果

  米トランプ大統領は日本に対して、駐留米軍の経費など日本防衛に要する費用の全額負担を要求すると主張している。その根底にある認識は、いわゆる日本の安保ただ乗り論だろう。米軍が日本を守ってやているのだから、その費用の全額を日本が払うべきだとする。日本が応じなければ駐留米軍を撤収するとも言っているので、駐留米軍の撤収が圧力になると考えているようだ。


 韓国に対しても同様の主張をし、NATO諸国に対しては国防費支出がGDP比2%という最低要件を守っていないと国防費支出の増額を求めている。これら主張を支える認識は、第一に米国の国力の相対的な衰えであり、第二に各国が負担増できる国力を備えているのに負担増加に消極的であるとし、第三に各国を守ってやることで米国だけが加重な負担を強いられているということだろう。


 米国は負担の報酬として、陰に陽に各国に大きな政治的影響力を有する。それは米国に有利な国際環境を形成、維持することに役立った。日本のことだけ見ても、日本の再独立後に米軍が撤退し、日本独自の再軍備が進んでいたとしたなら、日本の経済成長は遥かにゆっくりしたものであっただろうが、日本の政治に対する米国の影響力は限定的であり、対米追従と揶揄されたりもする日本外交は存在しなかったかもしれない。


 米国はイラクアフガニスタンにも米軍を駐留させたが、治安を維持することもできず、分裂状態になったままだ。米軍の駐留で影響力を及ぼすことができるのは現地政府に対してだけで、民意などをコントロールできないことは日本を始め各国でも同じだった。つまり、現地政府が実効支配できている国でしか、米軍駐留は米国に利益をもたらすことができないのだ。


 イスラム系の武装勢力の活動が活発化し、中東やアフリカなどの欧州植民地の境界線をそのまま国境とした国々から人々が国境の外へと流動化している現在は、国家が揺らいでいる時代でもある。そうした世界で各国における米軍駐留の効果が政治的には限定的になってきたと見なすなら、米国が米軍の世界展開を修正することは必要だろう。それは、費用の負担増加を求める姿勢とは異なるものだ。


 各国における米軍駐留は米国の国際的影響力を高め多大の利益をもたらしてきたが、トランプ氏などの目には、米軍が各国を守ってやっているとしか映らないのであろう。米国の国力が相対的に衰えている中で、各国から駐留米軍が撤退するなら、米国の国際的影響力はさらに弱まる。一方で各国は、更なる費用負担に見合う成果が米軍駐留から得られないと判断するなら「自立」も選択肢とならざるを得まい。


 トランプ氏の主張は、外交ではなくビジネス流の交渉スタイルなのかもしれない。駐留米軍を各国から撤退させる意図はなく、交渉を有利にするため最初に大きく吹っかけて、相手から多くの譲歩を引き出し、少しでも“取り分”を多くすることを狙う……駐留米軍という「重し」があるから日本政府が負担増に応じるとすれば、米軍を駐留させている大きな効果があったということになる。