望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

中心気圧

  2016年10月4日に台風18号が沖縄を襲い、気象庁は数十年に1度の災害が予想されるとして沖縄本島地方に大雨、暴風、波浪、高潮の特別警報を発表した。この時点で台風18号は中心気圧915hPa、中心付近の最大風速(10分間平均)は秒速55m、最大瞬間風速は同75m、強さは「猛烈」とされた。

 この台風18号は沖縄をかすめて北進し、韓国南部に大きな被害をもたらした。韓国では済州道で最大風速(10分間平均)49m、最大瞬間風速56.5mを記録し、韓国で観測された強風の中で歴代6位にあたると韓国気象庁。豪雨により大小の河川が氾濫し、現代自動車蔚山第2工場では生産ライン停止を余儀なくされ、釜山市の海沿いにある高級マンションは高波で浸水し、海産物の屋台約30軒が全壊したという。
 中心気圧は台風の規模を見る目安ともなるが、16年の台風18号は915hPaと非常に低い。過去に日本を襲った台風(統計が始まった1951年以降)では、1961年9月の第二室戸台風が925hPaで最も低く、次いで1959年9月の伊勢湾台風が929hPa。16年の台風18号は観測史上で最大規模の台風ということになる。ただし、16年9月に台湾、中国大陸を襲った台風14号は中心気圧が890hPaだった。

 統計開始以前では、1934年9月の室戸台風911.6hPa、1945年9月の枕崎台風が916.1hPaと共に死者・行方不明者が3千人を超した台風があり、今回の台風18号はそれらに匹敵する巨大台風だった。強い勢力を維持したまま、沖縄付近から進路が北東にずれて日本列島を縦断していたなら、大きな被害は免れ難かっただろう。

 フィリピンは2013年11月に台風30号の直撃を受け、高潮や強風などで死者・行方不明者8千人以上という大災害となった。この台風の中心気圧は895hPaまで低下し、中心付近で風速87.5m、最大瞬間風速105mという巨大台風だった。2005年8月に米ニューオーリンズを襲ったハリケーンカトリーナは中心気圧902hPa。堤防決壊でニューオーリンズの8割を水没させ、死者・行方不明者2500人以上だった。

 巨大で猛烈な台風に襲われると、すぐ異常気象と結びつけて考えがちだが、過去の記録を見ると、同規模の巨大台風に日本は何度も襲われていたことが明らかになる。観測体制が整っていない19世紀以前にも、おそらく巨大台風(熱帯低気圧)が日本や世界を何度も襲っていただろう。

 巨大台風を異常現象だとするのは恐怖心を煽るためには好都合だろうが、過去から何度も巨大台風は日本を襲っていた。巨大台風は時には来るものだと認識するならば、「正しく怖がる」ことができよう。正しく怖がるとは適切な対応を行うということ。つまり、想定される被害を前提にして、予め対策を講じることだ。