望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

空気の取引で商売

  2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」は、世界の温室効果ガス排出量を今世紀後半に実質ゼロにし、産業革命前からの気温上昇幅を2度未満、できれば1.5度に抑えるのが目標だという。主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新し、実施状況を報告、レビューを受ける決まりだというから、主要排出国が参加していなかった従来よりはマシ?


 温暖化問題となると「まだ途上国だ」と主張し、温室効果ガス排出削減に消極的だった中国がパリ協定の締結を承認、批准した。マスコミは総じて好意的に報じ、中国の発表は各国にも批准を強く促し、協定の発効へ向けて大きな前進だなどと評した。

 一連の報道には中国の削減目標の解説は見当たらなかったが、中国の目標とは、2030年の国内排出量をGDP当たりで2005年比60〜65%削減するというもの。そのころにCO2排出量の伸びをゼロにし、経済成長とCO2排出量の増加のデカプリング(切り離し)を実現するという。つまり、2030年までは経済成長(GDP増)に伴って排出されるCO2は増え続ける。


 GDP当たり排出量を減らすために中国は、太陽光発電風力発電などの非化石燃料エネルギーを大幅に増やしたりするというが、もっと効果的な方法がある。それは、鉄鋼産業など大量に温室効果ガスを排出している工業分野で、企業を減らすことだ。実質的に破綻しているが生産を続けているゾンビ企業を片っ端から整理、廃業させれば中国のC02排出量はかなり減るだろう。


 投資主導で成長してきた中国では、中央政府の政策に合わせて各地方政府がそれぞれに企業を作って生産に励むので、結果として過剰生産となる。中途半端な計画経済と中途半端な市場経済が組み合わされ、市場が歪められるので淘汰のメカニズムが働かず、ゾンビ企業は赤字を垂れ流し続け、CO2を排出し続ける。


 パリ協定の批准に続けて中国がゾンビ企業の大量整理に動き出すなら、2030年を待たずに中国の温室効果ガスの排出量は減少に向かうかもしれない。が、実現はあまり期待しないほうがいい。各地のゾンビ企業は多くの労働者を雇用しているから、大量の失業者が溢れて社会に不満が充満することを避けつつ、ゆっくりとしかゾンビ企業の整理は進まないだろう。


 一方で中国は排出権取引市場の育成を進め、事業者などに排出量を割り当て、市場で余剰排出量や不足排出量を売買するという。CO2排出を有料にして排出削減につなげようとの狙いだが、技術力に劣る中国企業は実際のCO2削減よりも、他から排出枠を購入することでツジツマをあわせるだろう。


 温室効果ガスの排出量が増えているから温暖化現象が起きている……のが真実なら、温室効果ガスの排出量そのものを削減する以外に対策はない。だが、温暖化論者も排出権取引を容認するという奇妙さは相変わらずだ。排出権取引市場を育成して、「空気の取引で金を動かそう」と目を付けた中国。GDP当たりのCO2は多少減るかもしれないが総排出量は増え続ける中国では、“いい商売”になりそうだな。