望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

日米安保なしの防衛コスト

 数年前、あるブログに「日米安保なしで防衛しようとすれば、防衛予算は4倍以上の20兆円以上になるという試算」とあった。その試算が正しいなら、日米安保は安上がりだとつい思いたくなるが、どうにでも積み上げて膨らますことができるのが軍事費。その試算が、どれほど客観性があるものなのかと確認しようと探したが、見つからなかった。

 代わりに見つかったのが、同様の趣旨だが「防衛費の増額分は最大で単年度あたり約1兆5500億円で、現行の約4兆6800億円(平成22年度予算)の1.3倍程度になることが、元航空幕僚長田母神俊雄氏と自衛隊OBらがまとめた試算で分かった」というものと、「今と同等の防衛力を維持するには10年間は今の5倍の隊員と年間約30兆円の予算が必要となる」との軍事アナリストの小川和久さんによる見積もり。

 軍事に関することこそ抽象論や感情論を排し、極端な状況設定に振り回されずに、客観性を保ちながら、理性的に具体的に検討しなければならない。それは、日本人が先の戦争から学んだことだ。軍事に関する情報は公開が制限されがちなこともあり、また、誘導がまぎれこみやすく過度の不安が煽られたりするので、常に冷静な検証が不可欠となる。

 日米安保なしで防衛力を維持するために必要な金額は、どの程度の能力を備えるかによって大きく異なる。例えば、現在の在日米軍はアジア全体、さらには中東などもカバーする展開能力を備えているが、日本だけの防衛を考えると、そんな能力は必要ない。強力な海兵隊は必要なく、大量の兵員・武器を輸送する能力も必要ない。つまり、日米安保をやめた時の日本独自の防衛力とは、今の在日米軍の能力より低下するが、それは当然のこと。

 現在の在日米軍と同じ能力を維持しようとすれば莫大な金額が必要となろうが、日本が軍事力でアジア・太平洋に睨みを効かし、さらには中東まで出掛けていく……なんてことを考えず、日本への侵略に対応することだけを考えるなら、20兆円とか30兆円という防衛費が必要になるはずがない。

 先の自衛隊OBらの試算では、核武装して「日本近海に配備する原子力空母、原子力潜水艦戦略爆撃機、トマホーク巡航ミサイルを20年かけて新たに開発・配備する」そうだが、日本近海で活動するだけなら原子力空母や原潜、戦略爆撃機は必要ない。ミサイルが高度化している現在、空母を持つより、各種の迎撃ミサイルを搭載した中小型艦艇を多く配備した方が、専守防衛には効果的だろう。

 日本の防衛で考えるべきことは、1)日本への侵略能力を有する国はどこか、2)その侵略能力はどれほどか、3)侵略する意図を有している国はどこかだ。どこかの国から核ミサイルを撃ち込まれたなら、それは日本の防衛力を超える(報復能力のために核武装する選択肢もあるが、核ミサイルの撃ち合いはセカイの終わりだろう)。

 日米安保をやめて米軍が日本から去ると、在日米軍が有していた抑止力はなくなる。当座は日本の防衛力は低下するが、すぐに日本を侵略しようとする国があるだろうか。「弱体化」した日本を通常兵器で攻撃することを試みる国が出てくる懸念はあるが、政治的に見ると、日米安保をやめて米国“支配”を脱した日本と手を結ぶほうが、日本を攻撃するよりもメリットが大きいだろう。でも、そうなると日本の“奪い合い”でアジアは不安定化するかも。