望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

毒を喰らわば

 こんなコラムを2008年に書いていました。

 やはりねと多くの人が思っただろう。伊藤忠商事が輸入した米国産牛肉に脊柱が混入していた。輸入された米国産牛肉は日本の検疫所で抜き取り検査されているそうだが、全品検査ではないため今回のようなことが起きる。昨年8月に伊藤忠商事が輸入し、吉野家の加工工場で保管されていた米国産牛肉から今年4月になって、箱を開けた時に脊柱が発見されたのが今回の「事件」。吉野家が全ての輸入牛肉を検品しているのか、たまたま脊柱を見つけたのかは報道では明らかではないが、どこかの店で牛丼に使われて、誰かの腹に入る前に見つかって、よかったネ。

 食糧自給率が39%(06年度、カロリーベース)という日本では膨大な食糧が輸入されているので、牛肉に限っても全品検査は実際には不可能だろう。現実的対応策としては、輸出する側に出荷時の検品徹底を求めるしかない。しかし、人間のやることにはミスがつきもの。アメリカ人にだって中国人にだって日本人にだって、見落としや間違いは起こり得る。それをどのようにカバーするかが、輸入に頼る日本の「食の安全」には必要になるが、抜き取り検査がせいぜいだとなると、今回のように「箱を開けて発見する」幸運(?)に頼るしか、ない?

 農薬などの問題で中国産食品全体への不信感が募っているようだが、輸入検疫での食品衛生法違反の割合は米国食品のほうが中国食品より高いという。全体の3分の1を占めるほど輸入量が多いから中国食品の違反件数は多いが、06年で見ると違反率は中国食品0.09%、米国食品0.12%。中国の代替地と目されているベトナムは0.35%、インドは0.28%。違反率が低いので「中国は、ちゃんと、やってるんだなあ」と思いたくなるが、実数は多い。

 やっぱり輸入食品は信用できないと国産食品に切り替えても、価格のことはさておき、「食の安全」はパーフェクトとは行かない。野菜の残留農薬検査が輸入検疫なみに行われているかというと、行われてはいない。以前に比べて農薬使用量は減っているのかもしれないが、高齢化が進む農家に残留農薬検査など多くを求めるのは無理だろう。加工食品は、数々の偽装事件に見られるように「儲けるためには何でもする」連中がウヨウヨ。さらに、加工を日本で行えば国産と表示できるとあって、「どこまでが国産なの?」と疑問はつきない。

 遺伝子組み換え作物・食品の輸入も増えそうで「食の安全」は脅かされている……のだろうが、ナーバスになればなるほど募るのが不安。安全にこしたことはないが、安心できる土地のものだけで毎食を済ませることができる人は限られよう。こうなりゃ、さんざん添加物まみれの加工食品や輸入食品を食べてきたのだから、いまさらナーバスになっても手遅れ……と開き直り、致死量の農薬などが入っていては困るが、少々のものは気にしてもしようがない、か。

 毒を喰らわば皿まで。脊柱など危険部位にまみれた肉を食べたとしてもBSEを発症するには時間がかかる。油断はしないが過敏にならず、食なんて、うまけりゃいいさと鷹揚に構えるのも一つの手だ。最近の温暖化キャンペーンに見られるように、不安をあおって一つ方向へマスコミが誘導するのは、よくある。食品は身近なだけにキャンペーンに踊らされやすいが、「食の安全」なんて実態はアイマイ。個人がそれぞれ判断するしかあるまい。