望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

食品偽装の誘惑

 コシヒカリと表示しながら低級米を混ぜていたり、輸入肉を和牛として売ったり、他産地の肉を松坂牛など銘柄肉に偽装したりと業者による産地偽装は珍しくない。加工食品では原料表示や加工日、消費期限の偽装などがあり、レストランなどのメニューでは材料の表示の偽装などが存在した。

 産地偽装や等級偽装、品質偽装、原材料偽装、消費期限偽装など様々な偽装が食品につきまとう。偽装の手段は様々だが、目的は金だ。安いものや廃棄すべきものを高く売ることができれば、儲かる。安く仕入れたものを高級品やブランド銘柄に見せて、できるだけ高く売ることで儲けが増える。

 食品の高級品やブランド品は相応に価格が高い。だが、消費者が必ず味わいの違いを識別できるかというと、心許ない。価格の高い食品と低価格品の味の違いを消費者が必ず識別できるとは限らず、赤身肉に牛脂を注入して霜降りに偽装した牛肉と銘柄牛を食べて識別できる消費者も少ないだろう。価格の高低と味わいの関係は曖昧だが価格差は存在するので、食品の偽装は根絶されない。

 見つかる可能性が低く、儲かるのだから食品偽装の誘惑は大きい。DNA分析で多くの食品偽装が暴かれるようになったが、DNA分析が全ての食品に対して行われるわけではない。事件化したものは氷山の一角だろう。欧州でもオリーブオイルやワインなどの産地偽装が頻発しているというから、食品偽装は珍しいものではないらしい。

 より美味しいものを食べたいという欲求は誰にでもあるだろう。売られている食品の味わいの違いは見ただけでは峻別し難く、価格の高低は一つの指標となる。そこから、高い食品=もっと美味しく品質がいい食品という了解(幻想?)を売る側と買う側の双方が共有した。商品の差別化は、高いものを買うことに満足する消費者の心理に支えられている。

 食品の表示は食品表示法により規定が統合され、販売される全ての食品に表示が義務化された。食品の種類ごとに細かな規定があるが、これで食品偽装が一掃されるか不明だ。法の抜け穴を探って一儲けしようという業者は必ず存在するだろうし、そもそも、偽装が見つからなければ儲けが大きいのだから食品偽装の誘惑が消えたわけではない。

 ところで、キツネそばやタヌキうどん、ウグイス餅、タイ焼きなどにキツネやタヌキ、ウグイス、タイなどの肉が入っているわけではない。こちらも食品偽装の一種と冷やかす人もいるが、消費者を騙す目的でつけた名称ではないから不問に付されている。油揚げ入り蕎麦とか揚げ玉入りうどんなどと「正確」な名称より、キツネそばやタヌキうどんなどのほうが食欲をそそるのは確かだ。