望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

各社がいっせいに値上げ

 米国の2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が7.9%と約40年ぶりの高い水準となった。CPIの上昇率が6%を超えるのは5カ月連続で1月は7.5%だったのでインフレの勢いは衰えておらず、ロシアのウクライナ侵攻もあって原油価格や小麦価格などが高騰しており、インフレはさらに加速する可能性が指摘されている。

 日本でもガソリンなどの値上がりに加え、公共料金や食品類、首都高の通行料金などの値上げが相次いでいる。食品を見ると、製パン各社は食パンや菓子パンなどを値上げし、即席麺メーカーは袋麺やカップ麺などの値上げを続々発表するなど小麦価格の高騰の影響が大きいが、原油高による物流経費や包装など資材価格の上昇も加わって調味料やマヨネーズ、加工肉など多くの食品で値上げが広がる。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、利用客が減少した鉄道各社は値上げを検討し始めた。JR東は新幹線や特急のグリーン席料金などを最大で約3割値上げしたほか、JR東とJR西は在来線で定期券運賃の値上げを検討していると報じられた。私鉄各社も値上げを検討しているといわれる中、政府は鉄道の運賃・料金制度を見直す方針を表明したので全面的な値上げの可能性も出てきた。

 物価が上がらないデフレが続いていた日本では、輸入に頼る食料や原材料などの国際価格の上昇を内容量を減らすステルス値上げなどで企業はしのいできたが、今回のエネルギーや食料などの国際価格の高騰には抗することができず、各社いっせいに続々と値上げに動く。これまで値上げしたかったが、できなかった各社が横並びで値上げを始めたと見える。

 これまで値上げが難しかったのは、代替商品が多数ある中で値上げしたなら売れ行き低下が懸念されたからだ。非正規雇用などで低収入の人が増え、日本全体で可処分所得が増えないので日本全体の購買力も低迷したままで、外食産業などサービス業でも低価格指向にせざるを得ず、賃金も商品やサービス価格も上がらない状態が続いた。

 そこへ値上げラッシュが始まった。非正規雇用も含め賃金引き上げが広く行われなければ、生活必需品への支出の割合が増えて他へは回らなくなり、購買力は低下する一方で消費の低迷に拍車がかかろう。個人消費は日本のGDPの半分強を占める。個人消費を刺激して増加させることが日本のGDP増加には不可欠だが、個人消費を増加させるための有効な経済政策は乏しかった。

 家電や半導体などは日本の有力な輸出品ではなくなり、自動車メーカーなどは世界で現地生産体制を整え、日本の経済政策の重点は「輸出立国から内需立国へ」転換すべきだった。だが、過度の円高警戒に見られるように時代の変化や経済構造の変化に政策が対応していない。今回の値上げラッシュは人々を直撃する。人々の不満が高まって政策を転換させるか、人々がさらに貧しくなることに甘んじるのか、大きな転換点を迎えた。